お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴満天のゴール/藤岡陽子(小学館)4.4点

満天のゴール

満天のゴール

【人が人を想うこと〜涙腺崩壊の感動本】

やっぱり読書っていいですね。この本を読むと、しみじみとそう思います。

作者は現役のナースとか。僻地医療の厳しい現実や人の生死の重みがリアルに胸に迫ってくるのはきっとそのせいなのでしょう。少々痛みを伴う物語ですが、すべてが救われるラストは文句なしに秀逸です。

【あらすじ・感想・レビュー】

夫から離婚を切り出され、京都の山奥の実家に身を寄せた奈緒、過去に責められ続ける地域の基幹病院の勤務医三上、人生に絶望し、生きることを諦めた老婦人早川。3人の運命的な出会いがそれぞれの人生を変えていく……というストーリーです。

前半の奈緒の離婚騒動では、夫とその愛人の理不尽な行動と奈緒の不甲斐ない対応に苛立ちや不快感が募り、正直読むのが苦痛になりますが、そこは辛抱です。奈緒も看護師の職に就いた辺りから、徐々に逞しくなっていきます。

そんな奈緒を支えるのは、一人息子の涼介と医者の三上。特に涼介の存在は、この作品の一服の清涼剤になっています。おそらく作者は、絶えず死の翳が付き纏うこの物語で、涼介を生の象徴として描きたかったのだろうと思います。その作者の意図は見事に奏功して、彼の自由奔放な言動は生命力に溢れ、多くの老人の心を救っています(もっともこんな純で真っ直ぐで勇気のある子は、現実にはなかなかいないのでしょうが……)。

そして、三上と早川の過去が明らかになる終盤、うねりのような感動が繰り返し押し寄せてきます。「あゝ、この本と出会えて良かった」と思える最高の瞬間です。そして最後にタイトルの本当の意味に気付いたとき、思わず目頭が熱くなります。

『人が人と関わり続ける限り、相手を想う気持ちが生まれる』……この三上の言葉に収斂されるように、この作品には、人が人を想う心の温かさや美しさが溢れています。それは作者の、人間や人生、そして人の死を見つめるときの全肯定の眼差し(死生観)に由来しているように思えます。いつも人の死の傍らにいる医療関係者ならではの答(境地)なのかもしれませんが、できれば自分も「満天のゴール」を目指して意味のある余生を過ごし、「すべてよし」(確かジャン・クリストフの辞世の言葉だったような……)の境地で旅立ちたいものだと思います。

最後に……この作品の素晴らしさをできるだけ多くの方にお伝えしたかったのですが、どうも自分の筆力では難しいようです。ぜひ実際に手に取って読んでいただけたらと思います。