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🔴ピンザの島/ドリアン助川(ポプラ文庫)3.9点

([と]1-3)ピンザの島 (ポプラ文庫)

([と]1-3)ピンザの島 (ポプラ文庫)

【出口のない若者の究極の選択】

生きることの意味を真摯に問い続ける作家、ドリアン助川の力作長編。

ピンザとは沖縄の宮古島でいうヤギのこと。南の島の美しくも厳しい自然の中で育まれる主人公とピンザとの温かい交流が印象的な一作。

【あらすじ】

父親を自殺で亡くし、自らも自殺願望に苛まれされる菊池涼介は、アルバイトで南の島を訪れる。

そこで涼介が出会ったのは、ピンザと呼ばれるヤギ。元コックの涼介は、ヤギの乳でチーズを作る夢を追い始め、アルバイトが終わっても島に残る選択をする。

しかし、涼介の挑戦は、ことごとく島のタブーに触れ、島民たちの怒りを買ってしまう。

敗北感にまみれた涼介は、大嵐の夜、ある重大な決断をする……。

【感想・レビュー】

力作ではあるが、ドリアン助川の作品としては少々物足りない。その原因は涼介のキャラクターにあるように思う。幼い頃、父親が借金を苦に自殺し、以降、母親と流浪の生活を送った彼の生い立ちには同情を禁じ得ないが、それをいつまでも引き摺って負のオーラを周囲に発散し続ける彼の弱さや稚さに共感が持てないのだ。

同じ薄幸の生い立ちでも、『あん』の徳江さんのように、自力では抗いようのない理不尽な運命に翻弄されながらも、なお人生を肯定的に生きようとするキャラクターなら、心に響いてくるのだが……。この作品は、物語としての訴求力や共鳴力が弱く、その点で、『あん』や『多摩川物語』には及ばない。

ただ、涼介が、島民たちとの諍いから逃げ出さずその場に踏み止まる場面は、毅然として潔い印象を残す。人は心底辛い時は、前を向くことなどできないものだ。前に進めなくても、後ろには引かず、ただじっとその場に踏み止まる……それもまた、勇気の証であるような気がする。この時点で、涼介は一つ成長したのだと思う。

また、よそ者に厳しく当たる島民の言い分もそれなりに筋が通っていて、良い悪いでは計れない島社会の厳かな文化がありのまま伝わってくるところも、いい。都会の若者の視点に偏ることなく、島の古来の伝統や文化にも敬意を払う作者の誠実な創作態度が垣間見えるようで、好感が持てる。

本作は、生きることの意味を見失った人たちへのエールの書。物語の全編を貫く作者の眼差しが温かい。