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🔴本屋稼業/波多野聖(ハルキ文庫)3.4点

本屋稼業 (ハルキ文庫 は 11-12)

本屋稼業 (ハルキ文庫 は 11-12)

【並々ならぬ書店愛】

紀伊國屋書店の創業者田辺茂一と、その右腕として活躍した松原治の波瀾の半生を描いた伝記物語。 

伝記としての面白味には欠けるが、田辺の並々ならぬ書店愛だけは素直に共感できる一作。

【あらすじ】

老舗の薪炭問屋「紀伊國屋」の長男として生まれた田辺茂一は、幼い頃父と訪れた書店「丸善」の香しい雰囲気が忘れられず、22歳にして「紀伊國屋書店」を創業する。

一方、軍人の子として生まれた松原治は、満鉄に入社するも、後に陸軍少尉となり、過酷な戦後処理の任務に従事する。

戦争で全てを失った二人は1950年に運命的な出会いを果たし、「紀伊國屋書店」を大きな発展へと導いていく……。

【感想・レビュー】

伝記モノを面白く感じるかどうかは、ひとえに主人公の人間的魅力にかかっていると思うが、正直なところ、田辺茂一にそれほどの魅力は感じない(……田辺の多彩な交友関係からすると、実物は魅力的な人物だったのかもしれないが)。

幼い頃から何不自由なく育って、無類の女好き。やりたいことだけやって、嫌なことはしない、という田辺の無頼の生き方は、粋ではあろうが、金持ちのボンボン特有の甘えや嫌味が感じられて好きになれないし、それ故、後年の彼の苦労談にもあまり共感はできない(……単なる貧乏人の僻み?)。

むしろ、謹厳実直な松原の方が心惹かれるところは多い。律儀に使命を果たそうとする彼の私心のなさや意志の強さは、いかにも元軍人、昭和の男らしくて、信頼感がある。

ただ、好き嫌いは別として、田辺の生来の無欲(私利私欲のなさ)と純粋な書店愛は評価すべきであろうし、その茫洋とした人柄も、大物らしいオーラがあることは認めざるを得ない。やはり、“敗戦で全てを失い、残ったのは命だけ”という極限状況を経験したとしないとでは、肝の座り方や日々の精神の有り様(心構え)が違ってくるものなのだろうか。

いかにも右肩上りの時代の立志伝ではあるが、昭和の時代ならではの破天荒な経営者を知る上では、それなりに参考となる一冊かもしれない。

……田辺が恋い焦がれた「丸善」(梶井基次郎が檸檬爆弾を仕掛けた書店。懐かしい!)。田辺にとって、書店とは、拠るべき故郷であり、サンクチュアリのような場所だったに違いない。