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🔴月の上の観覧車/荻原浩(新潮文庫)3.5点

月の上の観覧車 (新潮文庫)

月の上の観覧車 (新潮文庫)

昨年直木賞作家となった荻原浩の短編8篇を収録した作品集。

【感想・レビュー】

多くの作品が中高年の喪失感を扱って同世代の人間にとっては見につまされる切なさがある。ただ、余りにも感傷的で、やりきれない気分にもさせられる。確かにこの作品集は、大切なものを失った人々の悲哀と共に、彼らの再生を描いた希望の物語でもあるのだが、悲哀がセンチメンタル過ぎて(失礼な言い方かもしれないが、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」を聴いているときの気分に似ている)、再生の感動があまり胸に迫って来ないのだ。

表題作「月の上の観覧車」の中にこんな一文がある。『もうあと少しで終わる観覧車の中で私は思う。人生に二週目があればいいのに、と』。……そういう老いの感慨も分からないではないが、二週できる人生に何の意味があるのだろう。人生は一回こっきりだからこそ美しいと思うのだが。まあ、その辺りはそれぞれの美意識の問題なのだろう……。

ただ、この作品集の中の「上海租界の魔術師」は、文句なしの出来。かつて上海でマジシャンをしていた祖父の人生を孫娘の目線で辿った物語なのだが、この作品には何ともいえない人生の深い味わいがある。その成功の理由は、おそらく、祖父の人生を(本人の目線ではなく)孫娘の目線で語らせたことで、甘ったるい感傷やナルシズムが排除されているからだろう。

映画「八月の鯨」の劇中にこんなセリフがある。『人生の半分はトラブルで、あとの半分はそれを乗り越えるためにある』。これもまた一つの真実だろう。どうせツラい人生なら、(過去の感傷に囚われることなく)こんなタフな気持ちで全うしたいものだ。