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🔴阿蘭陀西鶴/朝井まかて(講談社文庫)4.0点

阿蘭陀西鶴 (講談社文庫)

阿蘭陀西鶴 (講談社文庫)

少々ジジくさいが、時代小説はいい。葉室麟の「蛍草」、乙川優三郎の「生きる」、宇江佐真理の「糸車」などは本当にいい作品だと思う。今回は、「すかたん」の才を評価して朝井まかてをチョイス。

本作は、江戸前期に活躍した浮世草子(今で言うエンタメ小説)作者井原西鶴とその娘おあいの親子愛を描いた物語。

【あらすじ】

全盲のおあいは、亡くなった母親から生きていくための知恵を教え込まれ、料理も裁縫も得意。下女のお玉とともに日々かいがいしく父西鶴の世話をしている。一方西鶴は、自分勝手で見栄っ張りではた迷惑な、困った男。おあいはそんな父が嫌でたまらないが、父と淡路へ旅したことをきっかけに父への想いが変わり始める……。

【感想・レビュー】

娘を想う父親の不器用な愛、ひたすら破滅に向かう歌舞伎役者辰彌へのおあいの淡い憧れ、養子に出された弟との偶然の再会などが女性作家らしい柔らかい筆使いで描かれていて、深い印象を残す。西鶴父娘と周囲の人々との温かい交流や、西鶴と松尾芭蕉との確執、近松門左衛門との友情などの挿話も、当時の世相や文壇事情が分かって面白い(事実か創作かはよく分からないが)。特に印象的なのが、当時流行した「心中」についての西鶴と近松の応酬。これを西鶴は滑稽と評し、近松は美と評する。二人の作風の本質を突いているようで、なかなか興味深い。

それにしても、作家とはつくづく凄い人種だと思う。様々な文献を調べ上げ、その内容を消化し、それを物語として組み立てる力もさることながら、五感で捉えた世界を「これしかない」という言葉に変換して文章化する力は、もう才能というしかないだろう。この作家は、本作の冒頭で、料理上手の全盲の娘のことを、「おあいの生きるこの世は、音と匂いと手触りでできていた」と表現している。なんと鮮やかな表現だろう。こういう、くどくど説明しない潔い表現こそが一流の証なのだろうと思う(小説も映画も説明が多いものはたいてい駄作)。

史実ベースのためか、前半の展開が緩くて少しもどかしくはあるが、読み応え十分の一冊。