お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵映画「バーレスク」/(2010アメリカ)感想*アメリカン・カルチャーの底力を痛感する映画*レビュー4.1点

バーレスク [SPE BEST] [Blu-ray]

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【ザッツ・エンターテイメント!ザッツ・アメリカ!】

歌ありダンスありロマンスありの楽しい(ミュージカル)映画。クリスティーナ・アギレラが歌って踊るバーレスク・ラウンジのゴージャスなショーが最大の見どころです。

……しかし、クリスティーナ・アギレラがこんなにキュートな女性だったとは‼(なんとなく “ケバい化粧の女”というイメージしかなかったので……)。彼女の場合、どう見ても薄化粧のときが可愛いと思うのですが。

【あらすじ】

アイオワの片田舎の冴えない店で働くアリは、歌手になることを夢見て、ロサンゼルスを目指す。ロサンゼルスの“バーレスク”というクラブでゴージャスなショーを見たアリは、クラブを経営するテスに懸命に自己アピールして、なんとかアルバイトとして雇ってもらうことに。やがて、アリはチャンスをモノにし、抜群の歌唱力とダンスで一躍話題をさらうのだが……。

【感想・レビュー】

とにかくショーがゴージャスで、歌もダンスも圧巻。出演者一人ひとりのパフォーマンスが筋金入りで、みんなレベルが高いし、層の厚さも実感します。やっぱりショービジネスの世界を扱わせたらハリウッドの独壇場ですね。これぞエンタメ、これぞアメリカって感じで、観ていて惚れ惚れします。

ストーリーとしては、典型的な“頑張る女の子のサクセスストーリー”。おおよそ先が読めるベタな展開なのですが、クリスティーナ・アギレラの圧倒的な魅力で多少のアラは全て帳消しにしています。キュートでセクシー、オマケに歌もダンスもパーフェクト。“天はニ物を与えず”なんて、やっぱり凡人への慰めの言葉なんだなあ、とつくづく思い知らされます。彼女の歌はどれも好みですが、やはり圧巻はクライマックスの“憧れのバーレスク”でしょうか。その迫力満点の歌声にハートが鷲掴みされてしまいます。

テス役のシェールの渋い歌声もいいですね。こちらも、歌も演技も申し分なし。いかにも実力派という感じです。こんなホンモノの芸能人がゴロゴロいるところがアメリカ文化の強みなんでしょうね。

映画的には、このテスとクラブの支配人?ショーン(スタンリー・トゥッチ)の掛け合いが見ものです。特にショーンの台詞の一言一言が機知とユーモアに富んでいて、それをさり気なく言うあたりがまたカッコいいなあと思います(アメリカン・ジョークのいい勉強になります)。

歌がメインの映画なので、音楽好き、ミュージカル好きの人には必見の映画かと思います。

🔴本「屍人荘の殺人」/今村昌弘(東京創元社)*2018本屋大賞ノミネート作品その4*感想&レビュー4.3点

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

【噂に違わぬ面白さ!前代未聞のミステリー】

なんちゅう奇抜な設定でしょう。ここまでブッ飛んだ小説は久し振り。とにかく、キャラよし、アイデア(トリック)よし、プロットよしで、とことん楽しめるミステリーです。

この作家、これがデビュー作とか。デビュー作で鮎川哲也賞など数々のタイトルを総ナメにするなんて、なんだか将棋の藤井五段みたいな勢いですね。

【あらすじ】

神紅大学のミステリー愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、天才的推理力の持ち主と噂される同じ大学の探偵少女剣崎比留子の誘いに乗り、避暑地の瀟洒な別荘「紫湛荘」で開かれる神紅大学映画研究会主催の曰くつきの夏合宿に参加する。「紫湛荘」に集まったのは、13人の男女。合宿一日目の夜、恒例の肝試しに出かけた彼らは、その途中、想定外の恐るべき事態に遭遇し、「紫湛荘」での立て籠もりを余儀なくされる。周囲を完全に包囲されクローズドサークルと化した「紫湛荘」での恐怖の一夜が明け……彼らが目にしたものは密室の部屋に横たわる仲間の一人の凄惨な死体だった。そして、それは連続殺人の序章に過ぎなかった。葉村らは、生き残りをかけて、事件の謎に挑むのだが……。 

【感想・レビュー】

大学生の男女、夏合宿、洒落た別荘とくれば、これは定番の青春ミステリーか?と思いきや……凡人の予想をあっさり裏切ってくれる驚愕のエンタメ・ミステリー。

何を言ってもネタバレになりそうなので、詳しくは語れませんが、奇抜すぎる設定と精巧極まりないトリックという相容れそうもない二つの要素が不思議なほど違和感なく融合した見事な作品だと思います。

文体も軽妙洒脱でユーモラス、葉村くんのダメ出しはホントに笑ってしまいます。比留子さんのキャラもいいですね。ホコホコします。普段はおっとりした天然系のお嬢様、しかしひと度事件が起きれば怜悧な天才探偵へと早変わりという、ベタといえばベタなキャラなのですが、「葉村くん、○○してくれたらちゅーしてあげる」とか「○○してくれたら膝枕してあげる」とか、いちいちセリフがキュートなので、全て許せます(ただし、比留子さんが二重の密室の謎を解く場面は、緊張感Max、その論理の美しさは鳥肌ものです)。かなりグロテスクな描写が多い作品ですが、この二人のちょっとワンテンポずれた、ほんわかしたキャラがそのグロさをうまく緩和しているような気がします。たぶんこの新人作家はその辺りも計算づくなんでしょうね(登場人物が多すぎて四苦八苦してたら、途中で比留子さんが分かりやすく整理してくれました。この作家、サービス精神も旺盛です)。

個人的には、一、ニ点ストンとこないところはありますが、面白さという点では文句なしの出来だと思います。

……しかし、班目機関やテロの首謀者浜坂准教授に関するくだりがなんとなく思わせぶりなところをみると、ひょっとして“美少女探偵剣崎比留子シリーズ”とか銘打って第二弾が用意されているのかもしれませんね。比留子さんの俄ファンとしては、そこは是非期待したいところです。

🔵映画「やさしい本泥棒」/(2013アメリカ,ドイツ)感想*人間の醜さと美しさが深く心に刺さる映画*レビュー4.3点

やさしい本泥棒 [Blu-ray]

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【これが劇場未公開?】

こんな良質の映画が劇場未公開だったなんて⁉ちょっとびっくりです。公開されなかった経緯は承知していませんが、見る目がないというか、もったいないというか、それが少々残念です(それでもDVD化はされたので、良しとすべきなのでしょうが……)。この映画は、私たちが知っておくべき歴史(人類の負の歴史とそれを乗り越えた人たちの苦難の歴史)が刻み込まれた秀作だと思います。

【あらすじ】

舞台は第2次世界大戦前夜のドイツ。弟を亡くし、赤狩りで逃亡中の母親とも別れることになった少女リーゼルは、ミュンヘン近郊の田舎町に住むハンス、ローザ夫妻に里子として引き取られる。字が読めなかった彼女は、養父のハンスから読み書きを習い、本を通じて様々な世界に触れることで、少しずつ生きる希望を見出してゆく。しかし、戦火が拡大するにつれ、ナチスの言論統制は厳しさを増し、人々は本を読む自由さえも制限されるようになる。そんなある日、リーゼルは、反ユダヤの集会が開かれた広場で大量に燃やされた本を目撃し、その中から焼け残った1冊をこっそり盗み持ち帰るのだが……。

【感想・レビュー】

過酷な運命に翻弄される少女が本との出会いによって真っ直ぐに成長していく様を、周囲の人たちとの温かい交流を交えて描いた感動のヒューマンドラマ。

これは好みの映画です。地味だけれども良質、もう少し注目されてもいい作品かと思います。物語の舞台がナチス支配下のドイツということで、全体のトーンはやや暗めですが、非人間的な状況下にあってもなお人間らしさを失わない人たちの優しさに救われて、視聴後は静かで深い余韻が胸に響きます。

特に印象深いのが、養親のハンス、ローザ夫妻とリーゼルの親友?のルディ。リーゼルに向ける養父ハンスの慈愛に満ちた眼差しと養母ローザの不器用な愛情は、思い出しただけでもう泣けてきそうになります。リーゼルとハンス、ローザ夫妻が本当の親子になってゆく過程が繊細かつ丁寧に描かれているところがすばらしいと思います(ローザがリーゼルの学校を訪ね、匿っているユダヤ人青年の無事を知らせるシーンは特に秀逸です)。

また、リーゼルと“レモン色の髪”の少年ルディとのエピソードも微笑ましくて素敵です。リーゼルの大切な本を取り戻すために真冬の川へ飛び込むルディ。カッコいいですね。子どもながらあっぱれな男だと思います。

そして、特筆すべきは、少女から大人の女性へと変わってゆくリーゼルの魅力。その面差しの変化は、まるで一人の少女の成長を数年間追いかけたドキュメンタリーを見ているかのようです。あどけなさの残る面差しに時折浮かぶハッとするような大人の表情にも魅了されます。ソフィー・ネリッセの演技力、恐るべしですね。

この映画の語り手を悪魔に設定したところやリーゼルと本の関わりが薄味なところに多少の違和感や物足りなさはありますが、総じて、主張のはっきりした、訴求力のある映画だと思います。こういう映画を観るたび、平和な時代に生まれた幸運をありがたく思うと同時に、日々を大切に生きようという謙虚な気持ちにさせられます。

🔴本「たゆたえども沈まず」/原田マハ(幻冬舎)*2018本屋大賞ノミネート作品その3*感想&レビュー4.1点

たゆたえども沈まず

たゆたえども沈まず

【天才画家の内面に肉薄した力作】

開高健が愛した名句『漂えど沈まず』は彼自身のオリジナルかと思っていましたが、語源はパリ市の紋章に刻まれたラテン語だったんですね(Fluctuat  nec  mergitur……セーヌの荒れ狂う波の中にあっても、舟のようにたゆたい、決して沈まないシテ島からインスピレーションを得た船乗りたちのまじないの言葉だとか)。

マハさん?の日本語訳は『たゆたえども沈まず』……こちらもなかなかいい響きです。

【あらすじ】

19世紀末、売れない画家フィンセント・ファン・ゴッホは、流浪の果て、パリの画商である弟テオドルスの元に転がり込む。世に認められず不遇をかこつ兄と、兄の才能を信じ、献身的に支え続ける弟。そんな兄弟の前に、浮世絵を引っ提げてパリの美術界に華々しく登場し、一躍“ジャポニズム”ブームを巻き起した日本人画商林忠正とその助手加納重吉が現れる……。

浮世絵に導かれた4人の親密な交流を描いて天才画家ゴッホの壮絶な人生に迫る渾身のアート小説。

【感想・レビュー】 

アンリ・ルソー(『楽園のカンヴァス』)、ピカソ(『暗幕のゲルニカ』)の次は、ついに19世紀美術界の“ラスボス”、ゴッホの登場です(満を持して、という感じがします。やっぱりゴッホは大物感がありますね)。

ゴッホと林忠正という、同時代のパリに実在した二人。この小説は、もし彼らに接点があったとしたら、という想像の元に書かれたフィクションです。ただ、ゴッホが、浮世絵の影響を受け、日本に強い憧れを抱いていたという史実を基にすれば、確かにこの二人の間に何らかの接点があってもおかしくないような気がします(むしろない方が不自然かも)。その点に着目してリアリティ溢れる作品をモノにしたマハさんの想像力と創造力はさすがだなあと思います。

作品自体の出来については、個人的には、『楽園のカンヴァス』>『たゆたえども沈まず』>『暗幕のゲルニカ』の順かなあと感じます。この作品、マハさんの魂が籠もった真面目な力作という印象で好感度は高いのですが、史実の縛りがあるためかドラマ性が乏しく、読んでいて退屈を感じないでもありません。また、『暗幕のゲルニカ』と同様、同じ情景のリフレインが何度かあって、多少くどくも感じます。物語のキーマンとなる林忠正がそれほど魅力的でないのもマイナス要素かなあと思います(僭越ながら……もっと“稀代の風雲児”のイメージを前面に押し出せば、もう少しストーリーが膨らんだのではと思うのですが)。

……つらつらと辛口コメントを並べてしまいましたが、決して期待外れというわけではありません。“ゴッホとがっぷり四つに組んで闘いたい”と言わんばかりのマハさんの意気込み(ゴッホ愛)がひしひしと伝わってくる作品であり、その点はとても好印象です。やはりパッションの画家ゴッホの内面に肉薄するにはこれくらいの気魄が必要なのでしょうね。また、読了後に再び冒頭のページに戻ると、より一層物語の興趣が増すという構成の妙も見事だと思います。

ついあれこれ言ってしまうのは、たぶん『楽園のカンヴァス』以来の熱烈なファンゆえの心理なのでしょう。彼女の作品に関しては、知らず知らずのうちにハードルを高くしているのかもしれません。

🔵映画「ユージュアル・サスペクツ」/(1995アメリカ)〜一番のワルは誰?凝りに凝った騙しのテクニック〜感想&レビュー4.0点

ユージュアル・サスペクツ [Blu-ray]

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【終わってみれば目から鱗】

「ユージュアル・サスペクツ」とは、「日常的な(あるいは、常連の)容疑者たち」という意味だそうです。なるほど、登場人物は皆、札付のワル。でも、一番のワルは誰?というのがこの映画のミソです。一杯食わされないように、どうぞしかと目を見開いてご覧ください。

【あらすじ】

銃器強奪事件の容疑で逮捕された5人の前科者。5人は、釈放後、宝石強盗を企てるが、狙いのブツは手に入らず、しかも宝石商を殺してしまう。戸惑う5人の前に現れたのは、正体不明の伝説のギャング“カイザー・ソゼ”の代理人を名乗るコバヤシという男。コバヤシは、5人の過去の悪事と宝石商殺しをネタに、カイザーの指示に従うよう5人を脅す。その指示とは、カイザーの商売敵による巨額の麻薬取引を壊滅せよ、というものだった……。

【感想・レビュー】

オープニングからエンディングまで息の抜けない、緊張感に満ちたサスペンス・スリラー。

カイザー・ソゼとは一体何者なのか?という謎がこの作品のキモになっています。そして、その謎を解く鍵となる人物がケヴィン・スペイシー扮するヴァーバル・キントという左半身が不自由な小悪党(5人組の1人で、詐欺が専門)。ヴァーバルが刑事に語るカイザーの凄まじい伝説やカイザーの代理人のコバヤシ(日系人じゃなくて白人⁉)の薄気味悪い雰囲気などを見聞きしていると、いやが上にも、まだ見ぬカイザーへの興味が掻き立てられます。

そして、全てが明らかになる衝撃のラスト。なるほどというか、やっぱりというか、結末自体にそれほどの驚きはないのですが、結末が分かることによって、あちこちに散りばめられた仕掛けの意味が浮き彫りになるところが驚きです。なるほどこれなら、“カイザーはなぜ5人組を使って麻薬取引現場を襲撃させたのか?”というもう一つの大きな謎もスッキリします(ついでに、なんで“コバヤシ”なのかも分かります)。また、最後にカイザーの似顔絵をチラつかせるあたりも、次なる結末を予感させて、心憎い演出だと思います。

どこまでも計算づくのこの映画、熟練のマジシャンの完璧なマジックを観ているようです(タネが分かれば目から鱗)。何が真実で何がフィクションなのか、しっかり目を凝らして観てないと置いてけぼりを食らう映画かと思います(過去と現在が頻繁に交錯するので、なお分かりにくくなっているきらいはありますが……)。

それにしても、ケヴィン・スペイシーはうまい役者ですね。これは彼の演技あっての映画だと思います。何が凄いかって……と説明したいところですが、(ネタバレになりそうなので)それは観てのお楽しみということで……(彼が本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞したのも納得です)。

🔴本「百貨の魔法」/村山早紀(ポプラ社)*2018本屋大賞ノミネート作品その2*感想&レビュー4.3点

百貨の魔法

百貨の魔法

【人の善意が紡ぎ出す魔法の物語】

地域の歴史ある百貨店……たぶんどの都市にもそんな百貨店があるんだろうと思います。この小説を読んで、親に連れられて初めて百貨店に行った日のことを思い出しました(半世紀以上も前のことなのに、レストランで何を食べたか、屋上で何に乗ったかまで憶えています)。貧しかった時代の子どもたちにとって、当時の百貨店は確かにめくるめく魔法の空間であった気がします。

それだけにこの小説に登場する、百貨店に強い思い入れのある大人たちの気持ちは本当によく分かります。自分にとっても、特別の感慨がよぎる小説です。

【あらすじ】

風早市の古い商店街の中心部に建つ創業50年の星野百貨店。戦後復興のシンボルとして長きに渡って地域に貢献し、街の人びとに愛されてきた百貨店だが、長引く不況の影響で、閉店の噂も囁かれている。

そんな百貨店を守ろうと、笑顔でそれぞれの持ち場に立ち続ける従業員たちと、館内に住むと噂される「魔法使いの白い猫」が織りなす奇跡を描いた物語。

【感想・レビュー】

第一幕から第四幕、幕間、終幕の6篇からなる連作集。各篇の登場人物は、エレベーターガール、テナントの靴店のオーナー、宝飾店のフロアマネージャー、資料室の事務員など様々ですが、全篇を通して登場するのが、新人コンシェルジュと、一つだけ願い事を叶えてくれる魔法使いの白い猫。つまりこの一人と一匹がこの物語のキーマンということになります(表紙に描かれた白い猫が物語のイメージとぴったり!素敵なイラストです)。

この物語、いかにも児童文学作家の作品らしいなあと思います。児童文学の延長線上にある大人向けの物語といった感じです。平易で素直な文章やファンタジックなストーリーに加えて、子どもたちに向ける大人の温かい眼差しや子どものいたいけな心情の描写にその(児童文学作家としての)特長がよく表れていると思います。

正直なところ、第一幕、第二幕あたりまではメルヘンチックな趣向が強すぎて、ちょっと気恥ずかしくもあったのですが、第三幕以降は、村山ワールド全開という感じで、どっぷりと物語の世界に浸ってしまいました。

中でも、第三幕の、星野百貨店の屋上で母親に置き去りにされた記憶を引き摺る宝飾店のフロアマネージャーが数十年の時を経て母親と再会する話と、終幕の、幼い頃百貨店内で『お利口くん』、『福の神ちゃん』と呼ばれて愛された鷹城夫妻と古参の従業員との心温まるエピソードには、完璧にやられてしまいました(2人の男の子の健気さがたまりません)。

村山さんの作品は、本当に優しいですね。“文は人なり”……とことん人の善意を信じ抜くその作風に村山さんの温かい人柄が偲ばれます。

🔵映画「帰ってきたヒトラー」感想*モラルの限界スレスレをゆくヤバい映画*(2015ドイツ)レビュー4.2点

帰ってきたヒトラー [Blu-ray]

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【コメディの皮を被ったシリアスな社会派映画】

ヒトラーをコメディにするなんて、なかなかできない荒業です(チャップリンの『独裁者/1940アメリカ』は、ホロコーストが本格化する前の映画です)。同名の原作小説がヒットしたとはいえ、内容が内容だけに、映画化に当たってはかなり神経を使ったのでないかと思われます(当然、ヒトラーを賛美する映画ではないのですが)

肝心の着地点がどうなるのかも気を揉みますが、なるほどそう来たかって感じで、最後まで気の抜けない怖い映画です。

【あらすじ】

2015年の現代ドイツに突然甦ったヒトラー。誰しも彼を“恐ろしく演技の上手いモノマネ芸人”と勘違いして、テレビやネットでもてはやす。やがて彼の過激な主張は、社会に不満を持つ大衆の心を捉え、その思想や政治的活動が俄然注目を浴びるようになる。しかし(彼を発掘したテレビマンと認知症のユダヤ人老婆の2人を除いて)皆、彼が現代にタイムスリップした本物のヒトラーであることに気付いていなかった……。

【感想・レビュー】

現代に甦ったヒトラーが、極右政党をこき下ろしたり、なぜか緑の党(環境主義、多文化主義、反戦を標榜)を支持したり、メルケルを“陰気なオーラのデブ女”と評したりと、政治的風刺の効いた大胆不敵なコメディです。70年前の思想を持ったままのヒトラーが出くわす現代社会とのギャップは、“確かにそうかも”と頷けるところがあって結構笑えます(たとえばテレビ番組のあまりのくだらなさに怒り、パソコンの圧倒的な情報量に嬉々とするあたり。とりわけパソコンの操作方法をレクチャーする秘書とヒトラーの噛み合わない会話がシュールすぎて笑えます)。

しかし、移民の流入、失業、貧困などの深刻な社会問題への大衆の(潜在的かつ強烈な)不満を目にしたヒトラーが、“国民は不満を抱いている。1930年と同じ状況だ”とほくそ笑むあたりになると、なんだか笑うに笑えない気分になります。

“歴史は繰り返す”……ヒトラーがその天才的な弁舌を駆使して、じわじわと大衆の心を掴み、正気から狂気へと駆り立ててゆくプロセスを見せられると、改めて衆愚政治の怖さや民主主義の危うさを痛感します(ヒトラーが乗り移ったかのようなオリヴァー・マスッチの鬼気迫る演説シーンが圧巻)。“(21世紀になっても)民主主義は未だに根付いていない”と呆れるヒトラーの言葉も印象的です。

結局、一番怖いのはヒトラーではなく、デマゴーグに簡単に踊らされるフツーの国民、ということになるのでしょうが、それにしても、人間って一人だとマトモに見えるのに、集団になるとなんでこんなに愚かになるのでしょうか……。