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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「妖怪博士 私立探偵明智小五郎」/江戸川乱歩(新潮文庫)感想*大人も子供も真っ直ぐだった時代の“よいこ”の探偵小説*レビュー4.1点

妖怪博士: 私立探偵 明智小五郎 (新潮文庫nex)

妖怪博士: 私立探偵 明智小五郎 (新潮文庫nex)

【“よいこ”のための探偵小説】

ぼ ぼ ぼくらは少年探偵団 勇気リンリン瑠璃の色♪……(少年探偵団の歌)、懐かしいなぁ。鼻タレ小僧だった頃、よく歌ってました。ラジオで流れてたのか、それともテレビで観てたのか、憶えていませんが……。

私、以前から江戸川乱歩の大ファンで、彼の本格推理ものと怪奇幻想ものの著作は一通り読んでいるのですが、少年探偵シリーズは今回が初読みです(乱歩の真骨頂は、怪奇幻想ものだと思います。「孤島の鬼」とか「押絵と旅する男」とか凄いもんです)。

この作品、少年少女向けの探偵小説ですが、昭和初期のレトロ感が何とも言えませんね。作品の端々に古き良き時代の趣が感じられて、大人でも十分愉しめる作品かと思います。

【あらすじ】

ある日の夕暮れ時、曲がり角に奇妙な印を書き残しながら歩く怪しい老人がいた。

帰宅途中の少年探偵団員、相川泰ニは不審に思って、こっそりとその跡をつける。老人が向かった先は一軒の古い洋館だった。

そこで手足を縛られた美少女を発見した泰ニは、勇気を振り絞って室内に潜入するが、美少女は蝋人形の偽物で、彼はたちまち蛭田博士と名乗る男に捕らわれてしまう。

帰宅した泰ニはその夜奇行に走り、その後、少年探偵団の三人の仲間も蛭田博士に捉えられ、誘拐事件の人質となってしまう。

蛭田博士とは一体何者なのか?事件解決は名探偵、明智小五郎に託される。しかし、明智に異常な対抗心を燃やす謎の探偵、殿村弘三の参戦により、事件は思わぬ方向へと向かっていく……。

【感想・レビュー】

物語の語り口は、講談師の講釈か活動写真の弁士の口上を聞いてるかのよう。多少古めかしくはあるけれど、テンポが良くて流れるような名調子です。

登場人物が不可解な行動をとるたび、作者が先回りして、疑問点を整理したり、読者を煽ったりする趣向もいかにも少年少女向けという感じで、乱歩の優しい心配りが感じられてちょっと和みます。

なるほど、だからこそ多少言い回しが古くても、いつの時代の子どもたちにも受け入れられてきたんでしょうね。

ストーリーの軸は、天才明智と怪人二十面相のプライドを懸けた頭脳対決。二人の虚々実々の駆け引きは大人が読んでも結構愉しめるレベルですが、それ以上に面白いのが怪人二十面相のキャラクターです。

悪辣で残忍なのに、美術品を愛し血を嫌うなど、スマートで紳士的。どうも犯罪を美学と考えているフシがあり、また明智との対決をゲームとして愉しんでいるふうでもあって、何とも憎めないキャラクターです。しかも変装の天才という強キャラなので、少年もの小説の悪役としては最高かもしれませんね。

もう一つ印象に残るのは、少年探偵団のメンバーの“子供らしさ”。腕白だけど正義感が強くて勇気があって、みんなよい子でほっこりします(ケストナーの「飛ぶ教室」や映画の「小さな恋のメロディ」に登場した少年たちを思い出します)。

子どもたちだけでなく、戦前の家族の有り様もいい感じです。子は親を敬い、親は子を慈しみ、“あぁ、こんな時代もあったんだ”と、懐かしいような、羨ましいような感傷を覚えます(当時の理想的な家族像が描かれているのでしょうが、確かにこういう家庭環境なら子どもも真っ直ぐ育つでしょうね)。

……ということで、孫の小学校の入学祝いにはこの少年探偵シリーズを買ってあげることに決めました。……孫ができたらの話ですが。

🔵映画「ビスマルク号を撃沈せよ!」/(1960アメリカ)感想*海戦アドベンチャーとしてもヒューマンドラマとしても見応えのある戦争巨編*レビュー4.2点

ビスマルク号を撃沈せよ! [DVD]

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【意外な掘り出し物?よく出来た戦争映画】

第二次世界大戦中、不沈戦艦と謳われたナチスのビスマルク号とイギリス海軍の艦隊との熾烈な戦いを描いた戦争巨編。

モノクロ映像ながら、ヒトラーが出席した進水式の模様など一部実写フィルムも使用され、巨大な戦艦同士の戦闘シーンなどリアリティがあって迫力十分。

戦争に翻弄される人間の苦悩も丁寧に描かれており、ヒューマンドラマとしても見応えのある作品だと思います。

【あらすじ】

1939年に進水したナチスの最新鋭戦艦ビスマルク号。

傑出したスピードと攻撃力を誇るビスマルク号は、次々と連合国軍の艦を撃破し、不沈戦艦と恐れられていた。

1941年、ビスマルク号はイギリス軍の補給路を断つべく、北大西洋上に出動する。

それを迎え撃つイギリス海軍の作戦責任者はシェパード大佐。彼はかつてビスマルク号の指揮官のリュッチェンス提督に艦を沈められた苦い経験を持っていた。

“いかなる手段を用いてもビスマルク号を撃沈せよ”という首相の檄に応えるべく、シェパード大佐は、イギリス海軍指令本部で昼夜を分かたず迎撃作戦を練る。しかし、性能で優るビスマルク号を仕留めるのは至難の業だった。

苦悩に沈むシェパード大佐をフォローしたのは、婦人部隊の有能な士官アン・デイビスだった。彼女はシェパード大佐に、苦しい時は仲間を頼るべきだと優しく諭す。

そして、リュッチェンス提督の動きを読んだシェパード大佐は、ビスマルク号の捕捉に成功し、国家の名誉と威信を賭けた最終決戦に臨む……。

【感想・レビュー】

これは海戦アドベンチャーとしてもヒューマンドラマとしても見応えのある映画です。

イギリス海軍とドイツ海軍の戦いは、洋上の戦艦同士の激突と、シェパード大佐とリュッチェンス提督との知略戦の二層構造で進行します。

洋上の戦艦同士の激突は、砲弾が乱れ飛び、魚雷が海面を走り、被弾、爆発、炎上と、緊張とスリルの連続。同時に、戦闘のさなかの艦長の瞬時の指令や乗組員の必死の動きも克明に追っているので、リアリティがあって、生死を懸けた戦いがいかに熾烈なものか、まざまざと見せつけられます。

火を吹き、黒煙を上げながらゆっくりと海に沈んでいく巨艦の姿は、圧巻ではありますが、物悲しくもあって、戦争の虚しさを象徴しているかのようです。

もう一つの見どころのシェパード大佐とリュッチェンス提督との知略戦は、まさに机上の戦いであり、ハイレベルのチェスゲームを観ているような静かな興奮を覚えます。

この映画では、シェパード大佐をヒーローとして描くのではなく、一人の人間として描いていますが、そのアプローチもすばらしいと思います。

任務の重圧や作戦立案の不安に止まらず、ドイツ軍の空爆で妻を失った喪失感や戦地で行方不明になった息子への悲痛な想いなどシェパード大佐の個人的な苦悩も丹念に描くことにより、戦争の悲惨さがより浮き彫りとなって、明らかに作品に深みが増しているような気がします。

そして、シェパード大佐を控えめにさり気なくフォローするデイビス士官。彼女の存在がなかったらさぞ殺伐とした映画になったのでは、と思わせる位の存在感があります。ダナ・ウインターというイギリス女優ですが、キレイな人ですね。ラストの清々しさも彼女あってのものだと思います。

この映画で残念なのは、イギリス軍とドイツ軍の見分けがつきにくいところとドイツ軍将校が英語を使うところでしょうか。敵・味方の判別は軍服で何とか分かるとしても、英語の方はどうも……ちょっとテンションが下がります。

🔴本「初秋」/ロバート・B・パーカー(ハヤカワ・ミステリ文庫)感想*スペンサー流“男の流儀”に痺れる傑作ハードボイルド小説*レビュー4.3点

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

【スペンサー流“男の流儀”に痺れる一作】

スペンサー・シリーズ第7作として、1981年に発表された傑作ハードボイルド小説。

スペンサー・シリーズは初読みですが、面白いですね。なによりスペンサーがカッコよすぎです。

“男らしさ”という言葉が死語になりつつある昨今、この作品は、“男らしさ”のホントの意味を教えてくれる一作かと思います。 

たぶん女性が読んでも、スペンサーの包容力と優しさに痺れるんじゃないかと思うのですが。

【あらすじ】

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい……美貌の母親から依頼を受けた私立探偵スペンサーは、直ぐに行動を開始し、容易く事を成し遂げる。

しかし、母親の元に連れ戻された15歳の少年ポールは何事にも無気力で無関心、誰に対しても心を開こうとしなかった。

父親も母親もポールへの愛情はなく、彼を夫婦間の駆け引きの材料として利用しているだけと気付いたスペンサーは、ポールを自分の元で自立させようと決心する。

スペンサーは恋人のスーザンが所有する別荘にポールを連れて行き、規則正しい生活、ボクシング、大工仕事などを叩き込む。

しかし、その後、息子を連れ戻そうとする父親の行動が次第にエスカレートし、スペンサー、スーザン、ポールはとうとう銃の標的に。

ポールを守るため、スペンサーは反撃に打って出るのだが……。

【感想・レビュー】

フツーのハードボイルド小説と違うのは、主人公(スペンサー)のキャラクターですかね。無骨な男性原理主義者という点はありがちですが、話好きで情が厚くてお節介なところがちょっと変わってます。この作品がハードボイルド小説にしては珍しく温かみのある作品に仕上がっているのは、たぶんそのためだろうと思います。

作品の主題は、ポールに注ぐスペンサーの愛。スペンサーはポールを一人前にするために様々なトレーニングを命じます。その要諦は、規則正しい生活を送ること、体を鍛えて自分の身は自分で守れるようにすること、その上で自分の好きな事を見付けること。これがスペンサーの考える自立の形です。

……“イクメン”なんていう最近の父親のイメージからすると、随分マッチョに映るかもしれませんが、古い人間からすると、スペンサーの教育は至極真っ当に思えます。なんだかんだ言っても、父親には父親の役割があると思うのですが……古いですかね(偏見なんでしょうが、“イクメン”と聞くと家に母親が二人いるような気がして、妙な違和感を覚えます)。

スペンサーの生き方もカッコいいですね。徹底した自己管理、名誉とか誇りを重んじる精神主義、芸術に関する深い造詣等々、どれをとっても独特の流儀があって、それが多少アナクロであるだけにかえって失われてしまった“男らしさ”を見せられているような気がします。こういった“男の流儀”を味わうのがハードボイルド小説の醍醐味なんだろうと思います。

スペンサーの包容力や優しさに甘さを感じる読者もいるかもしれませんが、そういう人は、スペンサーの用心棒・ホークの登場で溜飲が下がるだろうと思います。こちらは、非情だけど侠気があって、ハードボイルドそのもの。スペンサー以上にカッコいい男かもしれません。

🔵映画「天国への階段」/(1946イギリス)感想*神様も降参の“一耳惚れ”の恋*レビュー4.3点

天国への階段 [DVD]

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【一目惚れならぬ“一耳惚れ”の恋】

天国の使者のミスで生き返った英国男が米国女との恋を叶えるため、あの世とこの世を行ったり来たりする話。

何となくエルンスト・ルビッチの「天国は待ってくれる/(1943アメリカ)」を思い出します。あの世とこの世というシチュエーションがよく似てるし、あの世の入口に受付があるトコなんてそっくり。もっとも、受付にいるのが絶世の美女か閻魔大王かの違いはありますが……。

しかし、この映画も、ルビッチ作品に負けず劣らずお洒落です。しかも、イギリスらしく上品で紳士的。最後までニコニコ顔で楽しめる大人のファンタジーだと思います。

【あらすじ】

時代は第二次世界大戦中の1945年。イギリス空軍のパイロットのピーター・デヴィッド・カーター少佐は、ドイツ爆撃の帰還中、機体に被弾し、無線連絡を試みる。

無線を受けたのは、アメリカ人女性オペレーターのジューン。ピーターはジューン相手に人生最後の会話を楽しみ、死んだら幽霊になって会いに行くと約束して炎上する機体から地上へ飛び降りる。

その後、浜辺で意識を取り戻したピーターは、怪我一つしていないことを不思議に思いつつ、浜辺をうろつき、偶然通りがかった女性に声をかける。

女性の名はジューン。二人は無事に会えたことを喜び合い、たちまち恋に落ちる。

やがて、ピーターの前に天国からの死者が現れる。死者は、ピーターが生き返ったのは自分のミスだから、今すぐ天国に連れて帰る、と言う。

ジューンと一緒に過ごしたいピーターは、激しく抗議し、その結果、ピーターの生死は天国の裁判に委ねられることに。

ジューンはピーターの異変を察知し、町一番の名医・フランクに助けを求める。フランクはピーターの言葉を信じ、協力を約束するのだが……。

【感想・レビュー】

この世(地上)はテクニカラー、あの世(天国)はモノクロという映像感覚が斬新ですね。地上の生命力と天国の静謐のコントラストを際立たせる狙いがあるんだろうと思いますが、観ている方は、単純に話が分かりやすくて助かります。

この映画、冒頭のピーター(デヴィッド・ニーヴン)とジューン(キム・ハンター)の無線通話のやりとりが出色の出来です。

死が目前に迫っている中、ピーターのお喋りが、悲愴ではあるけれどウィットに富んでいて、いかにも英国紳士ふう。粋でダンディでカッコいいなぁと思います。真の紳士とは、いつ、いかなる場面でも余裕を失わない人のことをいうんですね。勉強になります(手遅れだけどw)。

一方のジューンは、フランクでフレンドリー。懸命にピーターを励ます姿が健気でグッときます。こちらはいかにもアメリカ女性って感じです。

なるほど、これなら二人が一目惚れならぬ“一耳惚れ”に陥るのも分かる気がします。

この冒頭シーンでグイッと話に引き込まれ、後はアッと驚く波瀾の展開。クライマックスの天国の審判も見どころです。

検察官と弁護人の議論の応酬自体は、当時のイギリスとアメリカの関係を反映してか、単なる意地の張り合いみたいで、それほど面白くはありませんが、あらゆる人種が集合した法廷の様子はなかなか壮観です。ジューンの涙を証拠品として提示するアイデアもイギリス流でお洒落です。

映像的には、“天国への階段”のセットが圧巻。1946年のイギリスでよくこんなセットが作れたもんだと感心します。

それと、この映画、脇役がいいですね。ドジで愛嬌たっぷりの天国の使者コンダクター71(マリウス・ゴーリング)とか、ピーターとジューンの恋を成就させようと奮闘する町医者フランク(ロジャー・リヴシー)とか、みんな善人で、しかも魅力的です(フランクはオチャメながら堂々たる風格があって、これまた紳士の鏡、カッコいいです)。

ちなみに、コンダクター71は、生前はフランス貴族、フランス革命で斬首刑になったという設定です。そんなファンタジーならではの設定も遊び心があって愉快ですね。

🔴本「スケートボーイズ」/碧野圭(実業之日本社文庫)感想*二番手スケーターの成長を活写した青春スポーツ小説*レビュー3.9点

スケートボーイズ (実業之日本社文庫)

スケートボーイズ (実業之日本社文庫)

【ケレン味のない青春スポーツ小説】

人気のフィギアスケートをモチーフにした青春スポーツ小説。

平昌五輪の日本人選手の大活躍も記憶に新しく、タイムリーかも、と思って読んでみました。

この小説、選手たちのスケート愛がいいですね。上手下手に関係なく、みんなが自分のベストを尽くしてる姿がとても爽やかです。

また、フィギアスケートの採点のルールとか、競技会の仕組みとか、フィギア界の内幕なども知れて、トリビア的にも楽しめる小説かなと思います。

【あらすじ】

大学4年生の全日本選手権を競技人生の最後の試合と決め、ケガによる1年間のブランクから復帰した和馬。

基礎練習から再スタートの和馬に比べ、小学生の頃から同じコーチの下で競い合ってきた光流は、今や日本のフィギアスケート界を担う若きエースへと成長していた。

光流への劣等感、親への気兼ね、就活への焦り、恋人との不和……和馬は様々な葛藤を抱えながらも、ひたむきにスケートに打ち込む。“全日本で待ってる”という光流の言葉に応えるために。

何とか全日本選手権の切符を勝ち取った和馬は、フリーの曲として「未完成交響曲」を選ぶ。それは長い間苦楽を共にしたコーチの思い出の曲だった。

そして、光流が選んだ曲も「未完成交響曲」。和馬は、光流の意図を測りかねるが……。

【感想・レビュー】

光流のモデルは羽生くん?神代は髙橋くん?でしょうか。まあ、キャラが多少カブってても彼らが主役でもないので、それもご愛嬌ですが。

主役は、全日本選手権出場を目指す大学生フィギアスケーターの和馬。世界のトップスケーターと比べると、“その他大勢”のポジションですが、この作品は、和馬ら、二番手、三番手のスケーターにスポットライトを当てているところがいい感じです。

華やかな世界の裏側の地味な部分……スケーターの生活不安だとか、日々の地道な努力だとか、他のスケーターとの確執だとか、素朴なスケート愛だとか……が、光流や神代のようなトップスケーターだとステージが違いすぎて何だかピンときませんが、和馬だと身近に感じられて理解しやすく、素直に共感できるものがあります(スケートを続ける決心をした和馬が次々に就職を決める仲間たちを見て動揺する場面などは、気持ちがよく分かります)。

ストーリー展開も、クライマックスの全日本選手権で大波乱が起きるわけでもなく、それほどドラマチックではありませんが、それでも和馬の演技中の充実感や演技後の達成感がひしひしと伝わってきて、胸がじわりと熱くなります。

たとえ結果はどうであれ、“好きだから続ける”、“諦めないでやり遂げる”という若者の姿は、やっぱり貴いものですね。

その意味で最も印象的なのは、和馬に憧れる大学生スケーター・鍋島佳澄の存在です。彼女は大学に入ってからフィギアスケートを始め、4年かかってようやく1回転ジャンプが跳べるようになったというレベルですが、その演技は観客を魅了します。

たぶんスケートが好きで好きでたまらないという想いが観客の心を揺さぶるのでしょうね。その姿にスポーツのすばらしさやアマチュアスポーツの原点を見る思いがして、とても清々しい印象が残ります。

できればネクラな大学新聞の記者・将人の出番を抑えて、佳澄ちゃんをもっとグローズアップしてほしかったなあと思います。そこがちょっぴり残念です。

🔵映画「アイアン・ジャイアント」/(1999アメリカ)感想*50年前に観たかった⁉胸熱のロボット・アニメ*レビュー4.2点

アイアン・ジャイアント スペシャル・エディション [DVD]

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【胸熱のロボット・アニメ】

1999年アニー賞の9部門を受賞したワーナー・ブラザースによる長編アニメーション映画。

アニメは久し振り。「トイ・ストーリー3」以来です。たまには童心に帰って、こんな映画もいいもんですね。

少年と巨大ロボットの友情を描いたこの作品、ベタと言えばベタなんですが、シンプル・イズ・ベスト、これぞ王道という安定感があって、子どもたちに愛や勇気の意味を分かりやすく教えてくれる、珍しく健全な映画だと思います。

また、大人たち(特に鉄腕アトムや鉄人28号をこよなく愛した世代)にとっては、懐かしくて温かくて切なくて、涙なしには観られない映画だろうと思います。

【あらすじ】

1957年のメイン州の小さな港町。9歳の少年ホーガースは、森の中で巨大なロボット、“アイアン・ジャイアント”を発見する。

彼は、無邪気な赤ん坊のようなアイアンに言葉を教え、食料の鉄屑を与え、人目に付かぬよう家の倉庫に匿う。

しかし、巨大ロボットを見たという噂が広まって、ついに政府のエージェントが派遣されることに。

ホーガースは、近くに住む変わり者の芸術家ディーンと協力して、必死にアイアンを守ろうとする。

しかし、アイアンの正体は、宇宙の彼方で製造された戦闘用ロボットだったのだ……。

【感想・レビュー】

ストーリーがシンプルなだけにストレートにハートを直撃する映画です。もう50年若ければ、きっとボロ泣きしたに違いありません。

最初は、ホーガースの顔がちっとも可愛くないし、ディーンも人相が悪いし、何て古臭いアニメだろうと思って観ていたのですが、観ているうちに合点がいきました。なるほど、この画は1957年の時代感を演出するための工夫だったんですね。

そうと分かると、このレトロ感が何となく味わい深くなって、最後は、この画じゃないとこの映画の良さは引き出せないんじゃあ、なんて思えてくるから不思議です。実際、ホーガースのママなんて、50年代のアメリカ女性の雰囲気がホントによく出ています(ママの顔は結構好みです)。

ママの画以上に感心したのは、アイアンの表情。シンプルな線で描かれた簡単(そう)な画なのにびっくりするほど表情豊かで、ホーガースに叱られてシュンとするところなんて、可愛らしくてたまりません。

また、自分が恐ろしい破壊力を秘めた戦闘兵器だと知ってショックを受けるところとか、憧れのヒーロー・スーパーマンに負けじとミサイルに立ち向かっていくところなんて、いじらしいやら悲しいやらで、ついホロッときてしまいます。

おそらく最新のCG画像だと、こんな素朴な味わいは出せなかっただろうと思います。時代を50年代に設定して、シンプルなストーリーと古臭い画にこだわった製作スタッフの慧眼に敬意を表します。

加えて、子供向け?アニメなのに、米ソ冷戦下のアメリカの社会や家庭を忠実に再現して作品に社会性を持たせている点も高く評価したいと思います。

……その点では、政府のエージェントは、当時のアメリカ政府や一部の保守層を象徴する存在として描かれているように思えます。

冷戦あり、スプートニク・ショックありで、ソ連を目の敵にする彼の気持ちも分からなくはないですが、思い込みが激しすぎて、アイアンを理解しようという姿勢が全く見られません。たぶん監督は、彼の醜態を通して、異質なものに対する猜疑心とか憎悪がいかに愚かで危ういものかを伝えたかったんだろうと思います。

そういった意味で、この映画は、排除の論理が益々激しくなった現代でこそ再評価されるべき映画と言えるのかもしれません。

🔴本「夜の木の下で」/湯本香樹美(新潮文庫)感想*湯本文学の一つの到達点を示す珠玉の短編集*レビュー4.4点

夜の木の下で (新潮文庫)

夜の木の下で (新潮文庫)

【湯本文学の到達点を示す短編集】

表題作の「夜の木の下で」外5篇を収録した短編小説集。

これぞ文学。静謐で瑞々しく、香気漂う名篇ばかりです。

遠く過ぎ去った日の忘れがたい記憶(原体験)を繊細な筆致で情感豊かに描いたこの作品集、タイプは違いますが、何となく芥川龍之介の「トロッコ」を思い出します。

自分の幼かった頃を思い出させてくれる、慈しみに満ちた作品集だと思います。

【あらすじ】

《緑の洞窟》

幼い頃、双子の弟と遊んだ秘密の洞窟。そこは庭の二本のアオキの緑に覆い隠された狭くて薄暗い小空間だった。そこから見える外の世界は目を見張るほどの不思議に溢れていて……。

その後、病気がちだった弟が亡くなり、父も母も年老いてしまう。そして、大人になったわたしは、弟と分かち合った秘密を思い出す……。

《焼却炉》

ミッションスクールの同級生のユリとカナ。焼却炉の当番だった二人は、燃える炎を見つめながら将来の夢を語り合う。

大人になったユリは、高校の図書室を訪れる。大好きだった本の貸出カードに二人の名前を見つけ出したユリは、あの時、話したかったこと、話せなかったことを思い出す……。

《リターン・マッチ》

いじめられっ子のトモユキからケットウジョウを受け取った柔道部員のケン。トモユキは自分をいじめている同級生全員に決闘を申し入れていたのだった。

ケンに巴投げで投げられたトモユキは、最後の難敵・町山との決闘のため、巴投げを習いたいと言う。しかし、町山との決闘が後に大きな事件の引き金となる……。

《私のサドル》

高校生の頃からいつもミキと行動を共にしてきたママチャリ。ミキはそのサドルと大の仲良しで、サドルにいつも愚痴や悩みを聞いてもらっていた。たとえば、ボーイフレンドの城ヶ崎くんが学校で問題を起こして転校したことなどを。

しかし、大学生のとき、その大切なママチャリが盗まれて……。

《マジック・フルート》

小学生のとき、祖父に引き取られた僕。ピアノを習うことになった僕は、道枝先生の教室に通い始めるが、先生の家には網枝さんという不思議なお姉さんがいて、僕に色んな話をしてくれるのだった。

でも、道枝先生は網枝さんが人と会うのを嫌っていて……。

《夜の木の下で》

不遇な環境の下で互いに助け合いながら育った姉と弟。二人は、幼い頃、母の言付けで庭で野良が産んだ仔猫を教会に捨てたという記憶を秘かに共有していた。

それから猫好きになった優しい弟。しかし、弟は交通事故で植物状態になってしまう。ある夜、姉は捨てた仔猫の夢を見る。その直後、病院から電話がかかってきて……。

【感想・レビュー】

それぞれの主人公の過ぎ去った日の記憶を静謐で透明感のある文体で瑞々しく描いた名短編集。

回想される過去の出来事が、弟を滑り台から突き飛ばした記憶であったり、自分の体面しか考えない母との確執であったり、あるいは生まれたばかりの子猫を捨てた体験であったりと、痛みを伴うものが多く、しかもどの作品にも死の翳が漂っていて、多少重たくはありますが、どこからともなく透明で晴朗な光が差し込んでいる気配が確かにあって、癒やしとか慰めを感じる作品集です。

心の奥底に仕舞った記憶の蓋を開けると、懐かしさより後悔が勝りそう気もしますが、時間は流れるものではなく降り積もるもの、今の自分は過去の自分の集大成……そんなふうに思えたら、(この主人公たちのように)かつての傷や痛みも慰めになるのかもしれませんね。

そういった意味で、この作品集は、喪失と再生の物語なのだろうと思います。

この作品集の中で好みの作品を挙げるとすれば、「マジック・フルート」でしょうか。少年の女性への淡い憧れがとても繊細に描かれています。網枝さんの語る悲しいヘビの物語やおばあちゃん幽霊のコミカルな行動も印象的で、湯本さんは日常の中にファンタジーを溶け込ませるのが本当にうまい作家だなあと感心します。

しかし、完成度の高さは、「緑の洞窟」が一番のような気がします。内容も構成も文章も、非の打ち所のない傑作。少年の日の恐れやおののきやときめきをこれほど見事に捉えた作品はなかなかないと思います。これは湯本文学の一つの精華。大したものだと思います。