お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵映画「フェリーニのアマルコルド」/(1973イタリア,フランス)感想*可笑しくて切なくて愛おしくて美しくて……この素晴らしきフェリーニの世界!*レビュー4.4点

フェリーニのアマルコルド 4K修復版 [Blu-ray]

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【この素晴らしき世界】

フェリーニの最高傑作との呼び声も高い「アマルコルド」、ようやくの初Blu-ray化です。

フェリーニ作品にはちょっと苦手意識があったんですが、これはいいですね。陽気で大らかで人間愛に溢れていて……即効性はないけれど、後でじわりと沁みてくる映画です。

視聴後は、フェリーニがニッコリ笑いながら“人生ってこんなもんでしょ”って言ってるような気がして、何だかホッコリします。

【あらすじ】

銀幕のスターを夢見るあまり婚期を逸してしまった町一番の美女グラディスカ。チッタは、そんな彼女に熱を上げ、しつこく付き纏うが、いつも軽くあしらわれる。

一方、父親は反ファシズムを唱えて拷問を受け、母親は病気で入院し、色情狂の伯父は精神病院送りと、ろくでもないことばかり。

しかし、町に出れば様々な人たちの逞しい暮らしがあって、皆で春の火祭り、夏の豪華客船見物、冬の雪合戦、そして再びの春の結婚式など町ぐるみの風物詩を謳歌しているのだった……。

1930年代の北イタリア、アドリア海に面した港町リミニ(フェリーニの故郷)を舞台に、少年チッタとその家族、そして彼らを取り巻く町の人々の1年間の営みを詩情豊かに描いたノスタルジック・コメディ。

【感想・レビュー】

アマルコルドとは、“私は覚えている”という意味の方言だそうです。そのタイトルどおり、この映画はフェリーニの少年期の回想集。

猥雑でありながら高貴、混沌としながらも調和がとれていて……なんて豊かな世界なんでしょう‼

やっぱりフェリーニは噂に違わぬマエストロですね。この作品には、人の“生”にまつわる喜びや悲しみの全てが詰まっています。加えて、四季の移ろいを鮮やかに捉えた圧巻の映像美、ニーノ・ロータの甘美な調べなど……まさに唯一無二。フェリーニの映像言語の豊かさに驚嘆します。

これはフェリーニ流の人間賛歌。グラディスカ、チッタとその家族、一風変わった教師の面々、イタズラ盛りの悪童たち、肉感的なタバコ屋のオバサン、盲目のアコーディオン弾き、田舎詩人……皆、可笑しくて愛おしくて、ホントにチャーミングな人ばかりです。

中でもひときわ強烈な個性を放っているのが色情狂のチッタの伯父さん。庭の大木に登って“女が欲しいよー!欲しいよー!”と叫び続ける伯父さんと、伯父さんを木から下ろそうと必死に説得する家族の果てしない攻防が可笑しいやら物悲しいやらで、“ああ、これが人間なんだ”と妙に納得してしまいます。

町の人たちがこぞって豪華客船を見物に行くシーンも印象的ですね。漆黒の海にボートを漕ぎ出し、不夜城のような巨大な客船に出くわしたときの彼らの反応が見ものです。その余りの壮麗さに一斉に歓声が上がり、中には泣き出す者も。美に圧倒され、陶酔する……これもまた人間ならでは。(田舎者らしい)彼らの素朴な感性がとても愛おしく思えます。

ストーリーらしいストーリーはなく、散文詩のような映画ですが、エピソードの一つ一つ、映像の一つ一つに力があって、それらが後になってジワッと効いてきます。たぶんこういうのを名作というんだろうと思います。

それにしても……ファシズムが台頭する最中、権力にへつらうことなく、自由にしたたかに生きて、楽しむことを忘れないイタリア人のメンタリティって、凄いもんだと思います。やっぱり人生、楽しんだ者勝ちですね。

🔴本「コリーニ事件」/フェルディナント・フォン・シーラッハ(創元推理文庫)感想*ドイツの刑事事件弁護士が描く衝撃と感動のリーガル・サスペンス*レビュー4.5点

コリーニ事件 (創元推理文庫)

コリーニ事件 (創元推理文庫)

【これは圧巻!衝撃と感動のリーガル・サスペンス】

ベルリンで刑事事件弁護士として活躍する著者のリーガル・サスペンス小説。

デビュー作の「犯罪」も凄い!と唸ったけど、これはそれ以上かも。

200ページ足らずの中篇ながら、とにかく訴求力がハンパなし。衝撃と感動の一冊です。

やっぱりシーラッハは只者じゃない!

個人的には、こういう作家こそノーベル賞に相応しいと思うのですが……。

【あらすじ】

ブランデンブルクのホテルの一室で、高名な富豪の老人が殺された。容疑者として逮捕されたのは67歳のイタリア人、コリーニ。

新米刑事事件弁護士のライネンは、コリーニの弁護を買って出るが、その後、被害者がライネンの亡き親友の祖父で、少年時代に世話になった恩人だったことが判明する。

ライネンは、弁護士としての使命感と人間としての感情との板挟みに苦悩しつつも、コリーニの弁護を続けることを決意するが、肝心のコリーニは、犯行の動機を一切語ろうとしなかった。

やがて、コリーニ事件の裁判が始まるが、被害者遺族側に付いたのは辣腕弁護士のマッティンガー。圧倒的に不利な状況で、ライネンは独自に事件の真相を追う。

法廷で繰り広げられるライネンとマッティンガーの熾烈な攻防戦。そして、その果てに明らかとなった驚愕の真相とは……。

【感想・レビュー】

ドイツ(人)の良心を感じる作品。映画化も進んでいるとか(完成したんでしょうか?)。テーマは少し違いますが、「善き人のためのソナタ」と似た雰囲気の映画になりそうな予感がします。ぜひ観てみたいものです。

この作品、“ナチスの戦争犯罪”がテーマになっていますが、シーラッハはこのテーマを通して、現存するある法律の抜け穴を(法律家として)厳しく指摘し、戦争後の憎しみの連鎖をどう克服すべきかを(作家として)読者に提示しています。

戦後70年以上経ってなお、負の歴史から目を逸らさないシーラッハの真摯で誠実な姿勢にまずは敬意を表したいと思います。

加えて、この作品がドイツでベストセラーになったという点もドイツ国民の良識を窺わせる事実として素直に感銘を覚えます。

もっとも、この作品が本国で幅広く支持を集めたのは、(そういった社会的意義への評価というより)単純に小説として面白いからというのが一番の理由だろうと思います。

読んでいて感心するのは、シーラッハの人を描く力。抑制の効いた簡潔な文体なのに何でこんなに血の通った人間が描けるんだろう、と不思議でなりません。文章が研ぎ澄まされている分、登場人物の心情がダイレクトに伝わってくるのかもしれませんね。

コリーニの動機の解明を軸に据えたストーリー展開も緊迫感があって読み応えがあります。善良で平凡な人間が罪を犯す不条理を描いている点はデビュー作「犯罪」と同じ。人は誰しも状況次第で罪を犯す可能性があるというシーラッハの警告(人生は薄氷の上を歩くようなもの!)を含んだ濃密な人間ドラマは圧巻と言う他なく、読後はしばし呆然とします。

ライネンの弁護士としての葛藤、コリーニと被害者との想像を絶する因縁、ライネンとマッティンの丁々発止の舌戦……どの場面をとっても、リーガル・サスペンスとして一流の出来だと思います。

……以下は余談ですが、

法曹関係者に最も必要な資質は、“素朴な正義感”だろうと思います(この作品を読んで更にその意を強くしました)。しかるに、素朴な正義感より教条主義的なイデオロギーを優先し、政治活動に前のめりになっている(かに見える)今の日本の弁護士会にはいささか辟易しています(偏見でしょうか?)。日本にもシーラッハのような弁護士が現れてほしいと切に願っているのですが……。

🔵映画「月に囚われた男」/(2009イギリス)感想*小粒で地味だけど、意外性に富んだSFスリラー*レビュー4.0点

月に囚(とら)われた男 [Blu-ray]

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【意外性に富んだSFスリラー】

ここんトコ副業が忙しくなって、ライフワークの方がすっかり疎かになっちゃいました。

……で、GWでようやく一息。久々の映画です。

「月に囚われた男」……タイトルが意味深なので、どんな映画かと思ったら、これってSFスリラーだったんですね。

設定がユニークで展開も謎だらけ、しかも意外性があって、趣向も凝っています。低予算で作られてる割には?面白く、結構コスパの高い映画かなと思います。

【あらすじ】

資源が枯渇した近未来の地球。人類が新たなエネルギー源として利用したのは、月の裏側に存在する鉱物だった。

ルナ産業から3年契約で月へと派遣されたサム・ベルは、AIロボットのガーティを相棒に、たった一人でエネルギー鉱物を採掘し、月から地球へ送っていたが、3年契約があと2週間で満了というときに、採掘現場で事故を起こし、意識を失ってしまう。

そして、基地内のベッドで意識を取り戻したサムは、トレーニングルームで自分と瓜二つの男に出くわす……。

【感想・レビュー】

イギリス映画らしく真面目な作りの作品ですね。あまりスケール感はないけれど、荒涼とした月面とか月から見える地球とかの光景が結構リアルで、ずっと観ていると自分も月面に立っているような臨場感があります。

映画の序盤は謎だらけ。宇宙に独りぼっちのサムの孤独感だけは痛いほど伝わってくるのですが、なかなか話の筋が見えなくて、暫くの間、???という感じです。しかし、ノア社の策謀が少しずつ明らかになってくる中盤あたりから想像以上にスリリングな展開になって、最後は納得のエンディング(何か切ないけど……)。

サムの奥さんのビデオレターとか基地内の少女の幻影とか、途中何だかよく分からない映像も混じって、ツッコミどころは多々ありそうですが、それを帳消しにしているのが、サムとガーティの主従の絆、サムとクローンとの友情?です。ガーティもクローンもどう見てもサムの敵役にしか見えないのですが、意外や意外、結構ウマが合ってるところがちょっとほっこりします。

また、サムの正体もなかなか衝撃的で、こういった意外性の演出は、さすが「ミッション;8ミニッツ」の監督、という気がします。

ハリウッドのSF大作と比べると、かなり小粒で地味な作品ですが、凝った心理サスペンスの味わいがあって、個人的には好きな作品です。

……それにしても、誰もいない月の裏側で3年間も単純労働だなんて、どんな罰ゲームだよ!ってツッコミたくなります(たぶん懲役10年の服役よりシビアですね)。この映画を観ていると、人間にとって一番辛いのは“孤独”なんだということがよく分かります。

🔴本「妖怪博士 私立探偵明智小五郎」/江戸川乱歩(新潮文庫)感想*大人も子供も真っ直ぐだった時代の“よいこ”の探偵小説*レビュー4.1点

妖怪博士: 私立探偵 明智小五郎 (新潮文庫nex)

妖怪博士: 私立探偵 明智小五郎 (新潮文庫nex)

【“よいこ”のための探偵小説】

ぼ ぼ ぼくらは少年探偵団 勇気リンリン瑠璃の色♪……(少年探偵団の歌)、懐かしいなぁ。鼻タレ小僧だった頃、よく歌ってました。ラジオで流れてたのか、それともテレビで観てたのか、憶えていませんが……。

私、以前から江戸川乱歩の大ファンで、彼の本格推理ものと怪奇幻想ものの著作は一通り読んでいるのですが、少年探偵シリーズは今回が初読みです(乱歩の真骨頂は、怪奇幻想ものだと思います。「孤島の鬼」とか「押絵と旅する男」とか凄いもんです)。

この作品、少年少女向けの探偵小説ですが、昭和初期のレトロ感が何とも言えませんね。作品の端々に古き良き時代の趣が感じられて、大人でも十分愉しめる作品かと思います。

【あらすじ】

ある日の夕暮れ時、曲がり角に奇妙な印を書き残しながら歩く怪しい老人がいた。

帰宅途中の少年探偵団員、相川泰ニは不審に思って、こっそりとその跡をつける。老人が向かった先は一軒の古い洋館だった。

そこで手足を縛られた美少女を発見した泰ニは、勇気を振り絞って室内に潜入するが、美少女は蝋人形の偽物で、彼はたちまち蛭田博士と名乗る男に捕らわれてしまう。

帰宅した泰ニはその夜奇行に走り、その後、少年探偵団の三人の仲間も蛭田博士に捉えられ、誘拐事件の人質となってしまう。

蛭田博士とは一体何者なのか?事件解決は名探偵、明智小五郎に託される。しかし、明智に異常な対抗心を燃やす謎の探偵、殿村弘三の参戦により、事件は思わぬ方向へと向かっていく……。

【感想・レビュー】

物語の語り口は、講談師の講釈か活動写真の弁士の口上を聞いてるかのよう。多少古めかしくはあるけれど、テンポが良くて流れるような名調子です。

登場人物が不可解な行動をとるたび、作者が先回りして、疑問点を整理したり、読者を煽ったりする趣向もいかにも少年少女向けという感じで、乱歩の優しい心配りが感じられてちょっと和みます。

なるほど、だからこそ多少言い回しが古くても、いつの時代の子どもたちにも受け入れられてきたんでしょうね。

ストーリーの軸は、天才明智と怪人二十面相のプライドを懸けた頭脳対決。二人の虚々実々の駆け引きは大人が読んでも結構愉しめるレベルですが、それ以上に面白いのが怪人二十面相のキャラクターです。

悪辣で残忍なのに、美術品を愛し血を嫌うなど、スマートで紳士的。どうも犯罪を美学と考えているフシがあり、また明智との対決をゲームとして愉しんでいるふうでもあって、何とも憎めないキャラクターです。しかも変装の天才という強キャラなので、少年もの小説の悪役としては最高かもしれませんね。

もう一つ印象に残るのは、少年探偵団のメンバーの“子供らしさ”。腕白だけど正義感が強くて勇気があって、みんなよい子でほっこりします(ケストナーの「飛ぶ教室」や映画の「小さな恋のメロディ」に登場した少年たちを思い出します)。

子どもたちだけでなく、戦前の家族の有り様もいい感じです。子は親を敬い、親は子を慈しみ、“あぁ、こんな時代もあったんだ”と、懐かしいような、羨ましいような感傷を覚えます(当時の理想的な家族像が描かれているのでしょうが、確かにこういう家庭環境なら子どもも真っ直ぐ育つでしょうね)。

……ということで、孫の小学校の入学祝いにはこの少年探偵シリーズを買ってあげることに決めました。……孫ができたらの話ですが。

🔵映画「ビスマルク号を撃沈せよ!」/(1960アメリカ)感想*海戦アドベンチャーとしてもヒューマンドラマとしても見応えのある戦争巨編*レビュー4.2点

ビスマルク号を撃沈せよ! [DVD]

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【意外な掘り出し物?よく出来た戦争映画】

第二次世界大戦中、不沈戦艦と謳われたナチスのビスマルク号とイギリス海軍の艦隊との熾烈な戦いを描いた戦争巨編。

モノクロ映像ながら、ヒトラーが出席した進水式の模様など一部実写フィルムも使用され、巨大な戦艦同士の戦闘シーンなどリアリティがあって迫力十分。

戦争に翻弄される人間の苦悩も丁寧に描かれており、ヒューマンドラマとしても見応えのある作品だと思います。

【あらすじ】

1939年に進水したナチスの最新鋭戦艦ビスマルク号。

傑出したスピードと攻撃力を誇るビスマルク号は、次々と連合国軍の艦を撃破し、不沈戦艦と恐れられていた。

1941年、ビスマルク号はイギリス軍の補給路を断つべく、北大西洋上に出動する。

それを迎え撃つイギリス海軍の作戦責任者はシェパード大佐。彼はかつてビスマルク号の指揮官のリュッチェンス提督に艦を沈められた苦い経験を持っていた。

“いかなる手段を用いてもビスマルク号を撃沈せよ”という首相の檄に応えるべく、シェパード大佐は、イギリス海軍指令本部で昼夜を分かたず迎撃作戦を練る。しかし、性能で優るビスマルク号を仕留めるのは至難の業だった。

苦悩に沈むシェパード大佐をフォローしたのは、婦人部隊の有能な士官アン・デイビスだった。彼女はシェパード大佐に、苦しい時は仲間を頼るべきだと優しく諭す。

そして、リュッチェンス提督の動きを読んだシェパード大佐は、ビスマルク号の捕捉に成功し、国家の名誉と威信を賭けた最終決戦に臨む……。

【感想・レビュー】

これは海戦アドベンチャーとしてもヒューマンドラマとしても見応えのある映画です。

イギリス海軍とドイツ海軍の戦いは、洋上の戦艦同士の激突と、シェパード大佐とリュッチェンス提督との知略戦の二層構造で進行します。

洋上の戦艦同士の激突は、砲弾が乱れ飛び、魚雷が海面を走り、被弾、爆発、炎上と、緊張とスリルの連続。同時に、戦闘のさなかの艦長の瞬時の指令や乗組員の必死の動きも克明に追っているので、リアリティがあって、生死を懸けた戦いがいかに熾烈なものか、まざまざと見せつけられます。

火を吹き、黒煙を上げながらゆっくりと海に沈んでいく巨艦の姿は、圧巻ではありますが、物悲しくもあって、戦争の虚しさを象徴しているかのようです。

もう一つの見どころのシェパード大佐とリュッチェンス提督との知略戦は、まさに机上の戦いであり、ハイレベルのチェスゲームを観ているような静かな興奮を覚えます。

この映画では、シェパード大佐をヒーローとして描くのではなく、一人の人間として描いていますが、そのアプローチもすばらしいと思います。

任務の重圧や作戦立案の不安に止まらず、ドイツ軍の空爆で妻を失った喪失感や戦地で行方不明になった息子への悲痛な想いなどシェパード大佐の個人的な苦悩も丹念に描くことにより、戦争の悲惨さがより浮き彫りとなって、明らかに作品に深みが増しているような気がします。

そして、シェパード大佐を控えめにさり気なくフォローするデイビス士官。彼女の存在がなかったらさぞ殺伐とした映画になったのでは、と思わせる位の存在感があります。ダナ・ウインターというイギリス女優ですが、キレイな人ですね。ラストの清々しさも彼女あってのものだと思います。

この映画で残念なのは、イギリス軍とドイツ軍の見分けがつきにくいところとドイツ軍将校が英語を使うところでしょうか。敵・味方の判別は軍服で何とか分かるとしても、英語の方はどうも……ちょっとテンションが下がります。

🔴本「初秋」/ロバート・B・パーカー(ハヤカワ・ミステリ文庫)感想*スペンサー流“男の流儀”に痺れる傑作ハードボイルド小説*レビュー4.3点

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

【スペンサー流“男の流儀”に痺れる一作】

スペンサー・シリーズ第7作として、1981年に発表された傑作ハードボイルド小説。

スペンサー・シリーズは初読みですが、面白いですね。なによりスペンサーがカッコよすぎです。

“男らしさ”という言葉が死語になりつつある昨今、この作品は、“男らしさ”のホントの意味を教えてくれる一作かと思います。 

たぶん女性が読んでも、スペンサーの包容力と優しさに痺れるんじゃないかと思うのですが。

【あらすじ】

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい……美貌の母親から依頼を受けた私立探偵スペンサーは、直ぐに行動を開始し、容易く事を成し遂げる。

しかし、母親の元に連れ戻された15歳の少年ポールは何事にも無気力で無関心、誰に対しても心を開こうとしなかった。

父親も母親もポールへの愛情はなく、彼を夫婦間の駆け引きの材料として利用しているだけと気付いたスペンサーは、ポールを自分の元で自立させようと決心する。

スペンサーは恋人のスーザンが所有する別荘にポールを連れて行き、規則正しい生活、ボクシング、大工仕事などを叩き込む。

しかし、その後、息子を連れ戻そうとする父親の行動が次第にエスカレートし、スペンサー、スーザン、ポールはとうとう銃の標的に。

ポールを守るため、スペンサーは反撃に打って出るのだが……。

【感想・レビュー】

フツーのハードボイルド小説と違うのは、主人公(スペンサー)のキャラクターですかね。無骨な男性原理主義者という点はありがちですが、話好きで情が厚くてお節介なところがちょっと変わってます。この作品がハードボイルド小説にしては珍しく温かみのある作品に仕上がっているのは、たぶんそのためだろうと思います。

作品の主題は、ポールに注ぐスペンサーの愛。スペンサーはポールを一人前にするために様々なトレーニングを命じます。その要諦は、規則正しい生活を送ること、体を鍛えて自分の身は自分で守れるようにすること、その上で自分の好きな事を見付けること。これがスペンサーの考える自立の形です。

……“イクメン”なんていう最近の父親のイメージからすると、随分マッチョに映るかもしれませんが、古い人間からすると、スペンサーの教育は至極真っ当に思えます。なんだかんだ言っても、父親には父親の役割があると思うのですが……古いですかね(偏見なんでしょうが、“イクメン”と聞くと家に母親が二人いるような気がして、妙な違和感を覚えます)。

スペンサーの生き方もカッコいいですね。徹底した自己管理、名誉とか誇りを重んじる精神主義、芸術に関する深い造詣等々、どれをとっても独特の流儀があって、それが多少アナクロであるだけにかえって失われてしまった“男らしさ”を見せられているような気がします。こういった“男の流儀”を味わうのがハードボイルド小説の醍醐味なんだろうと思います。

スペンサーの包容力や優しさに甘さを感じる読者もいるかもしれませんが、そういう人は、スペンサーの用心棒・ホークの登場で溜飲が下がるだろうと思います。こちらは、非情だけど侠気があって、ハードボイルドそのもの。スペンサー以上にカッコいい男かもしれません。

🔵映画「天国への階段」/(1946イギリス)感想*神様も降参の“一耳惚れ”の恋*レビュー4.3点

天国への階段 [DVD]

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【一目惚れならぬ“一耳惚れ”の恋】

天国の使者のミスで生き返った英国男が米国女との恋を叶えるため、あの世とこの世を行ったり来たりする話。

何となくエルンスト・ルビッチの「天国は待ってくれる/(1943アメリカ)」を思い出します。あの世とこの世というシチュエーションがよく似てるし、あの世の入口に受付があるトコなんてそっくり。もっとも、受付にいるのが絶世の美女か閻魔大王かの違いはありますが……。

しかし、この映画も、ルビッチ作品に負けず劣らずお洒落です。しかも、イギリスらしく上品で紳士的。最後までニコニコ顔で楽しめる大人のファンタジーだと思います。

【あらすじ】

時代は第二次世界大戦中の1945年。イギリス空軍のパイロットのピーター・デヴィッド・カーター少佐は、ドイツ爆撃の帰還中、機体に被弾し、無線連絡を試みる。

無線を受けたのは、アメリカ人女性オペレーターのジューン。ピーターはジューン相手に人生最後の会話を楽しみ、死んだら幽霊になって会いに行くと約束して炎上する機体から地上へ飛び降りる。

その後、浜辺で意識を取り戻したピーターは、怪我一つしていないことを不思議に思いつつ、浜辺をうろつき、偶然通りがかった女性に声をかける。

女性の名はジューン。二人は無事に会えたことを喜び合い、たちまち恋に落ちる。

やがて、ピーターの前に天国からの死者が現れる。死者は、ピーターが生き返ったのは自分のミスだから、今すぐ天国に連れて帰る、と言う。

ジューンと一緒に過ごしたいピーターは、激しく抗議し、その結果、ピーターの生死は天国の裁判に委ねられることに。

ジューンはピーターの異変を察知し、町一番の名医・フランクに助けを求める。フランクはピーターの言葉を信じ、協力を約束するのだが……。

【感想・レビュー】

この世(地上)はテクニカラー、あの世(天国)はモノクロという映像感覚が斬新ですね。地上の生命力と天国の静謐のコントラストを際立たせる狙いがあるんだろうと思いますが、観ている方は、単純に話が分かりやすくて助かります。

この映画、冒頭のピーター(デヴィッド・ニーヴン)とジューン(キム・ハンター)の無線通話のやりとりが出色の出来です。

死が目前に迫っている中、ピーターのお喋りが、悲愴ではあるけれどウィットに富んでいて、いかにも英国紳士ふう。粋でダンディでカッコいいなぁと思います。真の紳士とは、いつ、いかなる場面でも余裕を失わない人のことをいうんですね。勉強になります(手遅れだけどw)。

一方のジューンは、フランクでフレンドリー。懸命にピーターを励ます姿が健気でグッときます。こちらはいかにもアメリカ女性って感じです。

なるほど、これなら二人が一目惚れならぬ“一耳惚れ”に陥るのも分かる気がします。

この冒頭シーンでグイッと話に引き込まれ、後はアッと驚く波瀾の展開。クライマックスの天国の審判も見どころです。

検察官と弁護人の議論の応酬自体は、当時のイギリスとアメリカの関係を反映してか、単なる意地の張り合いみたいで、それほど面白くはありませんが、あらゆる人種が集合した法廷の様子はなかなか壮観です。ジューンの涙を証拠品として提示するアイデアもイギリス流でお洒落です。

映像的には、“天国への階段”のセットが圧巻。1946年のイギリスでよくこんなセットが作れたもんだと感心します。

それと、この映画、脇役がいいですね。ドジで愛嬌たっぷりの天国の使者コンダクター71(マリウス・ゴーリング)とか、ピーターとジューンの恋を成就させようと奮闘する町医者フランク(ロジャー・リヴシー)とか、みんな善人で、しかも魅力的です(フランクはオチャメながら堂々たる風格があって、これまた紳士の鏡、カッコいいです)。

ちなみに、コンダクター71は、生前はフランス貴族、フランス革命で斬首刑になったという設定です。そんなファンタジーならではの設定も遊び心があって愉快ですね。