お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵アフター・ウェディング/(2006デンマーク)4.3点

 

アフター・ウェディング スペシャル・エディション [DVD]

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【日本人的感性を感じるデンマーク映画】

やっぱりデンマーク映画はいいですね。『バベットの晩餐会』や『ミフネ』と同じく、この映画も、静かで深くて繊細で、なんとなく日本人の感性にしっくりくる感じがします。

登場人物の物静かで控え目なところとか、周囲を気遣い、あまり感情を表に出さないところとかが日本人と似ている気がしてシンパシーを感じるのかもしれません。

【あらすじ・感想・レビュー】

インドでホームレスの子どもたちの支援活動を続けるデンマーク人ヤコブの元に、コペンハーゲンの富豪ヨルゲンから“援助したいので、直ぐにコペンに来るように”という連絡が届く。20年振りに母国の土を踏んだヤコブは、ヨルゲンの元を訪れて契約をまとめようとするが、ヨルゲンは結論を先送りにし、なぜかヤコブを娘アナの結婚式に招待する。その翌日、ヤコブが結婚式で目にしたものは、ヨルゲンの妻となったかつての恋人ヘレネの姿だった……。

幸せな家庭に突然現れた“招かれざる客”によって明らかになる複雑な人間模様と、各々の葛藤の先にある希望を描いたヒューマンドラマ。

これは久々の拾い物、隠れた名作といってよいかと思います。ややもすると陰々滅々たるドラマか安っぽいメロドラマになりがちなテーマを繊細な技巧で軽く捌いて、奥の深いドラマに仕立て上げた監督の手腕は大したものだと感心します。

この映画の最大の見どころは、(“ヤコブとヘレネの再会は偶然なのか、罠なのか”、“罠だとしたら、誰が何のために仕掛けたのか”、といったサスペンスフルな展開も見どころの一つではありますが)、登場人物一人ひとりの微妙な心の動きを言葉ではなく一コマの画像で語り尽くしている映像表現かと思います。各々の表情(特に瞳)をアップで捉えたシーンが頻繁に現れるのも、たぶん心の揺れを一コマで切り取るための暗喩的表現なのでしょう(まさに“目は口ほどに物を言う”ですね)。こういう芸の細かさがいかにも女性監督らしいなあと思います。また、この監督の終始抑制的な態度も好印象です。過酷な現実を描きながらも、登場人物に過度に肩入れすることなく、むしろ登場人物を突き放した描き方をしているところが、この映画の後味の良さに繋がっているような気がします。

この映画、ヨルゲンの存在感が圧倒的です。やはり彼が最も重い葛藤を抱えているからでしょうか。その葛藤の果ての無償の愛を見せられたとき、思わず肌が粟立つような感動を覚えます。また、ヨルゲンとヤコブに対するアナの想いも忘れがたい印象を残します。父を想う娘の涙って本当に美しいものですね。ヨルゲンの配剤が実を結んだのかどうかは判然としませんが、薄ぼんやりと未来が覗く静かなラストも、いかにもデンマーク映画らしくていいなあと思います。

🔴影踏み鬼/翔田寛(双葉文庫)4.2点

新装版 影踏み鬼 (双葉文庫)

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【鮮やかなどんでん返し】

切れ味鋭い文体、緻密な構成、意表を突く結末、どれをとってもハイレベルな、乱歩賞作家による表題作外4篇を収録した短編集。

人間の業の深さを思い知らされる、ホラーに限りなく近い時代ミステリーですが、最後のどんでん返しで救われます。

【あらすじ・感想・レビュー】

舞台は江戸後期から明治初期にかけての江戸又は東京。奇怪な事件の顛末とその裏側に隠された驚愕の真実を描いた短編集です。

人間の救い難い業を描いて、生々しくもおぞましく、その罪深さに慄然とする作品ばかりですが、一方でどれも静謐な美しさも湛えていて、後味は不思議と悪くありません(むしろホロリとさせられます)。それは、たぶんラストのどんでん返しで明らかになる、切ない人情や人間の真心(良心)に打たれるからだろうと思います。そのあたりの清濁のバランスが絶妙で、かなり緻密に計算された短編集という印象を受けます。

この短編集の中で最も感銘深いのは『奈落闇恋乃道行(ならくのやみこいのみちゆき)』でしょうか(『血みどろ絵』も好きです。……もっとも、小説としての完成度なら『影踏み鬼』が一番かもしれません)。

……人気歌舞伎役者坂東彦助の不可解な自殺の謎を追う一座の黒子(語り手)。彦助と品川芸者小浜との愛憎、小浜を巡る彦助と他の一座の重鎮役者との恋の鞘あて、彦助と一座の弟子たちとの確執などの実相を探るうち、黒子が辿り着いた衝撃の真実とは?……というストーリーですが、幾重にも張り巡らされた伏線が一気に回収される劇的なラストは圧巻の一言、加えて、道ならぬ恋に殉じた彦助と、彦助を一途に想う小浜のあまりにも切ない心模様が深い余韻を残します。この作品はミステリーとして読んでも人情小説として読んでも一級品だと思います。

🔵西洋鏡/(2000アメリカ,中国)4.2点

西洋鏡 [DVD]

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【映画館で観てみたい映画】

まだ中国が辮髪と纏足の時代だった頃、中国で初めて映画を作った青年リウの物語。

この映画、中国版『ニュー・シネマ・パラダイス』というふれこみですが、確かにリウの無垢の映画愛は、トトやアルフレードと相通じるものがあるような気がします。

映画という媒体そのものが好き、あるいは、映画館という空間の雰囲気が好きという人にはオススメの映画かなと思います。一度映画館で観てみたい映画です。  

【あらすじ・感想・レビュー】

舞台は20世紀初頭の(清朝末期)の北京。イギリス人レイモンドが持ち込んだ西洋鏡(活動写真)に魅了された写真館の青年技師リウが中国初となる活動写真作りに挑戦する姿を、活動写真と京劇との軋轢やリウの身分違いの恋などのエピソードを織り交ぜながら描いた史実に基づく物語。

これは地味にいい映画だなあと思います。リウとレイモンドの人種の垣根を超えた友情、リウと京劇の大物役者の娘リンとの身分違いの恋、リウと親や雇い主との温かい絆……それぞれの想いや心の機微が丁寧に描かれて、人肌の温もりを感じます。レイモンドがリウに自身の境遇を打ち明けるシーン、レイモンドの指南を受けてリウがリンにキスをするシーン、父が息子リウを助けるために眼鏡のレンズを提供するシーンなど、忘れられないシーンはいくつもありますが、最も印象深いのは、活動写真館の客席の大人や子供の屈託のない笑顔です。自分も初めて映画を観たときは、きっとこんなふうに目を輝かせ、驚いたり、興奮したりしたんだろうなあという想いが胸をよぎって、もうその笑顔を見ただけで十分幸せな気分になれました。

また、朴訥で好奇心旺盛なリウももちろん好印象ですが、リンの魅力が際立っています。パッと目を引くような華やかさはありませんが、彼女がまとう初々しく楚々とした雰囲気は、今の時代、かなり希少だと思います。はやりの女優にはない素朴な美しさがあって、ずっと目が釘付けになりました。写真館の店主もどこかで見たことあるなあと思ったら、『秋菊の物語』、『北京ヴァイオリン』に出ていたんですね。芸達者なおじさんです(俳優陣だけ見ても中国映画のレベルはなかなかのものだと思います)。

……この映画、背景に万里の長城や紫禁城も登場します(なんと西太后や京劇の演舞まで!)。その華麗で壮大な光景に触れて、中国の悠久の歴史に想いを馳せるのも、また一興かと思います。 

🔴木漏れ日に泳ぐ魚/恩田陸(文春文庫)3.7点

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

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【男のズルさと女のしたたかさ】

主な登場人物は2人だけ。物語は、章ごとに男の視点と女の視点が入れ替わる形で進行します。

終始漂う不穏な空気に息苦しさを感じ、早く解放感を味わいたい一心でついつい頁を捲る手が早くなる、そんな緊張感に満ちた小説です。

【あらすじ・感想・レビュー】

舞台は、空っぽになったアパートの一室。別れを決意した若い男女が、山で死んだある男について、互いの腹を探り合いながら、夜通し語り明かす。そして、辿り着いた事件の真相と互いの過去の秘密……。若い男女が遭遇した事件を契機に移ろい行く恋の顛末を描いた濃密な心理劇。

密室というシチュエーションといい、含みのある台詞回しといい、スリリングな展開といい、まるで舞台劇でも観ているかのような小説です。たった2人だけのやりとりなのに、よくもまあこれだけ厄介で面妖な心理戦が描けるもんだと感心します。腹の探り合いから本音の応酬へとヒートアップしていく過程の緊張感、全ての謎が(まるでパズルのピースが一つ一つ埋まっていくように)少しずつ解けていく過程の面白味、男女の心境が微妙に変化していく過程の説得力……やっぱり恩田さんはうまいなあ、と思います。

……しかし、男ってどうしてこんなに分かりやすいんでしょうか。“逃げ出したいのに未練たらたら”という男のミエミエのズルさに思わず苦笑してしまいます。一方、女は逞しく、したたかです。そして、その能力は修羅場になればなるほど発揮されるように思います。

……ということで、世の賢明な男性諸君は、この小説を読んで、女性の洞察力の鋭さ(いわゆる女の勘というやつ……怖いのは、その勘がほとんど外れないこと)と、一旦腹を括った後のブレない覚悟をよくよく肝に命じておくべきです。“知恵も度胸も女には敵わない”、男はこの諦めが肝要かと思います。

この小説の難点と言えば、緊張感や閉塞感が長く続く割にはラストの解放感が乏しいところでしょうか。そのため、読後、疲労感が残ります。また、女の口を借りて語られる作者の恋愛観も、一面の本質を突いているとはいえ、言わずもがなのところもあって、少し安っぽい感じがしないでもありません。もっとも、これは“抜き差しならない恋”などすっかり疎遠になった年寄りの言い草ですから、若い人ならまた違った感想になろうかと思います。感性は人それぞれ。人によって受け止め方が違うのも、小説の面白さであり、人の面白さだと思います。

🔵オー!ゴッド/(1977アメリカ)4.2点

オー! ゴッド [DVD]

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【信じる者は救われる】

古き良き時代の名残りを留める70年代のアメリカ(人)の宗教観を軽妙に描いた作品。荒唐無稽なストーリーながら、切り口がユニークで、語り口もユーモラスなので、宗教に全く関心がない人でも十分楽しめる映画かなと思います。

【あらすじ・感想・レビュー】

デタラメな人間社会に警鐘を鳴らすべく、神様がメッセンジャーとして指名したのは、スーパーの冴えない主任ジェリー。ジェリーは、神様のお告げを世に伝えるため活動を始めるが、誰にも相手にしてもらえない。やがて、ジェリーの行動は宗教界の重鎮の逆鱗に触れ、裁判沙汰となってしまうのだが……。

オトボケキャラの神様と平凡なスーパーの主任が巻き起こす珍騒動の顛末をコメディタッチで描いたファンタジー。

平凡な善人ジェリーに扮するのは、カントリーシンガーのジョン・デンバー。懐かしいです(『カントリーロード(故郷へ帰りたい)』は今でも時々聴いています)。演技の方も意外と?いい感じで、気弱で正直なジェリーを伸び伸びと好演しています。そして、そのジェリーを上回る存在感を示しているのが、神様(ジョージ・バーンズ)。どこにでもいそうな極々ありふれた風体の老人ですが、ウィットに富み、愛嬌があって、とてもチャーミングです。この“庶民的な神様”という設定が、この映画の成功の最大の要因だろうと思います。

この神様、ちょっといい加減で頼りない印象もありますが、そこはなんといっても神様、キメるときにはキメてくれます。例えば……人が生きる意味はなにか?という宗教学会からの質問状に対し、『人は男も女も、その生きる意味は、自分がどういう意味を求めるかで決まる』とか、あるいは、偽善的な宗教家を批判して、『なぜ人間が裸で生まれると思う?わたしは服を作りたくなかったのだ。ポケットに何か入れたくなるから。あの男は偽物だ』とか……なかなか含蓄のある言葉だと思います。

さして信心深くないジェリーが、神様の存在を信じるようになるのも分かる気がします。この映画を観ていると、宗教や信仰の本質は、実は至極シンプルなものかもしれないなあ、なんて思ったりもします。宗教(というより宗教家ですが)には若干抵抗がありますが、名もなき庶民の素朴な信仰心は(シンプルであるが故に)、貴く美しいものだと思います。

……この映画のラスト、神様が法廷でジェリーを弁護するシーンは最高です。やっぱり“信じる者は救われる”ですね。

🔴賢者の贈りもの/O・ヘンリー(新潮文庫)4.2点

賢者の贈りもの: O・ヘンリー傑作選I (新潮文庫)

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【手練の短編作家が描く人生の妙味】

泣き笑いのツボを外さない短編の名手O・ヘンリーの表題作外15の作品を集めた傑作短編集。

100年以上も前に書かれた作品なのに、古さを全く感じさせないところが凄いと思います。古典落語の人情咄が廃れないのと同じように、やっぱり人の感情に流行り廃りはないってことなんでしょうね。

【あらすじ・感想・レビュー】

以前読んだことがあるからか、それとも、似たような話をどこかで聞いたことがあるからか、途中からオチが想像できる作品がいくつかありますが、O・ヘンリーの凄いところは、それでも十分面白いということです。

この短編集、題材が、ロマンスもの、人情もの、悪漢ものなど幅広く、登場人物も、金持ち、貧乏人、エリート、労働者など多彩で、飽きることがありません。内容も、起承転結のバランスがよく(中には前置きの長さに閉口する作品もありますが)、どれをとってもオチの鮮やかは見事の一言です。また、大胆な比喩、誇張などを駆使したシニカルな文体も、この作家ならではのペーソスを醸し出しています。

イチオシ作品を挙げるとすれば、『賢者の贈りもの』、『水車のある教会』、『千ドル』あたりでしょうか。『賢者の贈りもの』は、互いの一番大切なものを売り払って、とんちんかんな贈り物を交換する貧乏な若夫婦を描いた物語。夫も妻も、相手が今一番欲しがってる物を知っているところが素敵です。ちょっとベタですが、大切なのは物より愛、愛の価値を知ってる人は、確かに賢者と言えるのかもしれません。『水車のある教会』は、生き別れになった父と娘の奇跡的な再会を描いた物語。トシを取ると、人の善意が報われる話が一番グッときます。『千ドル』は、愛する人に莫大な遺産を譲ろうと画策する青年の無償の愛を描いた物語。これも泣けます。

やっぱりO・ヘンリーはいいですね。彼の人を見る眼の優しさは、通り一遍の(お節介じみた)優しさと違って、深い諦念や絶望を味わった者だけが持つ優しさのように感じます(服役、離婚などの辛い人生経験の影響?)。どこからともなく、“人間だから、しょうがないよね”という彼の声が聞こえてくるような気がして、ちょっとホッとします。

🔵この森で、天使はバスを降りた/(1996アメリカ)4.1点

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【アメリカのヒューマニズム】

タイトルのイメージと違って、シリアスで濃厚なヒューマンドラマです。ストーリーはシンプルですが、なかなか吸引力のある映画だと思います。

感想を一言で言えば、“いかにもアメリカ的”という感じでしょうか。良くも悪くもアメリカ映画らしいなあと思います。

 【あらすじ・感想・レビュー】

ある冬の夜、人生をやり直すために北部の小さな田舎町のバス停に降り立ったパーシー。彼女は、町のレストランで働き始め、レストランの店主ハナ、近所の主婦シェルビーらと親交を深めていく。やがて、パーシーの純粋な優しさは周囲の人々の心を解きほぐし、自身の心の傷も次第に癒やされていくのだが……。

テーマは“癒やし”、あるいは“贖罪”。内容は少し地味ですが、知らず知らず惹き込まれてしまう映画です。

パーシーの過去が明らかになるにつれ、気持ちが重くなっていきますが、その重さも彼女の純粋さやシェルビーの優しさ、森の風景の美しさなどに触れて救われます。初めは、前科者のパーシーがなんで天使?と思うのですが、彼女の献身的な行動を見ていると、なるほど、と納得します。そんなパーシーに感化されたシェルビーも好印象です。夫のいいなりになっていつもオドオドしていた彼女が、パーシーと出会ったことで強くなります。彼女の変化(人間的成長)は微笑ましくもあり、励みにもなります。その辺りを丁寧に描いた序盤、中盤はかなり良い出来だと思います。

……それにしても、余所者に対する田舎町の住民の下世話な好奇心や露骨な偏見、一旦打ち解けた後の(打って変わった)フレンドリーな態度などを見るにつけ、アメリカ人って、偏狭なのか寛大なのかよく分からんなあ、と思ってしまいます(これこそ偏見?)。

そして、最も分かりにくいのが、この映画の結末です。息子への盲目的な愛からパーシーの純粋な真心を踏みにじったハナ、パーシーへの妬みから彼女を罠に嵌めたシェルビーの夫……彼らのその後を見ていると、失われたものと得られたものバランスの悪さに苦々しい思いします(もう少し罪の意識があって然るべきでは、という思いもあります)。もしかすると、この監督、“二人とも、最後はパーシーの存在で救われたのだから、救われた人を許すのもヒューマニズムだろう”という考えなのかもしれません。仮にそうだとしたら、アメリカのヒューマニズムって少し安っぽくないか、と言いたいところです。

……というわけで、この映画、真面目に作られた良心的な秀作だとは思うのですが、ややご都合主義的?な結末が引っ掛かります。……私が少しパーシーに入れ込みすぎているのかもしれませんが。